2016年〜2018年、カープのリーグ3連覇を不動の「1番・ショート」として支えた田中広輔。2019年以降は故障などに苦しみ、昨年は一軍出場44試合と苦しい1年を過ごした。

 ここ数年、苦しいシーズンを過ごしてきたが、復活を期する今季は2年ぶりとなる本塁打を放つなど要所で活躍し、再び存在感を示している。

 ここでは、昨シーズン限りで現役生活にピリオドを打ったカープOBの安部友裕氏が、“同学年だからこその目線”で田中について語る。

経験豊富な田中広輔。今季は開幕から印象的な活躍を見せている。

◆タイミングであり、遠回りではない。体験したからこそわかること

 (田中)広輔は入団してから活躍している期間が長いですし、彼なしではリーグ3連覇もあり得なかったと思います。2019年以降に調子が落ちたタイミングでも起用してもらえるチャンスがありましたが、故障などもありレギュラーとして試合に出場できない状況となってしまいました。相当な悔しさがあると思います。

 彼が高いプライドを持って戦っていたということは見ていて分かりましたし、僕自身も彼と衝突したこともありました。だからこそ、見ただけで『今、何を考えているのか?』が分かるようになったり、『こんなことを考えているんだろうな』など、いろいろと感じる部分がありました。

 昨年は二軍で一緒に過ごす時間も多く、たくさん話をしました。彼は職人肌なので、周囲の若手選手も近寄り難い雰囲気があったかもしれません。ですが、特に昨季は彼なりに考えて、以前とは考え方も変わっているのではないかと感じています。

 それは、僕自身も同じ状況になったからこそ分かることなのですが、ここ数年間は彼自身の目を向ける方向が、野球ではない方向にいっていたのではないかと感じていました。そもそも、野球をするためにみんなここにいるわけです。ただ、その出来事は彼なりのタイミングであるし、広輔にとっては遠回りではないはずです。

 ずっと成功していることがもちろん良い事だと思います。ですが、ここ数年間で苦しい体験をしたことで、野球人としてとても良い経験をしていると感じます。そういうことに気づくことなくプロ野球界を去っていく選手もいます。苦しい体験をした選手でなければ理解できないことというのは必ずあると思います。

 僕は現役最終年となった昨年、そういうことを理解することができました。考え方が変わる分岐点を感じましたし、他の選手であっても取り組みや、表情、発言が変わってきたことが分かります。

 そして何より、ファンのみなさんはまだまだ広輔の活躍を期待していると思います。それこそ2019年に当時高卒ルーキーの小園(海斗)が一軍に出てきたとき、田中はライバル心をむき出しでプレーしていたと思いますし、同学年として彼と長く過ごしてきた僕はそう感じていました。

 『まだまだ負けられないぞ』という気持ち、そういう思いを持つことこそ、チームに良い相乗効果を生むと思います。

 当然、若い小園はイケイケでプレーして良いと思いますし、広輔はそこに負けないぞという気持ちでプレーする。そこには互いにリスペクトの思いを持っていることが大切になってくると思います。

 僕自身も3連覇時に内野手としてプレーする中で、(西川)龍馬がサードで出場機会を増やしていたときには、すごく彼のことを意識していましたし「まだまだ負けないぞ」という思いを持っていました。

 苦しさを経験したからこそ、強くなった田中広輔が今年は見れると思いますし、プレー、メンタル面でもチームに良い影響を与えてくれるのではないでしょうか。

◆田中 広輔/たなか こうすけ
1989年7月3日生、神奈川県出身。東海大ーJR東日本を経て、2013年ドラフト3位でカープに入団。即戦力ルーキーとして1年目から110試合に出場すると、2016年からは不動の1番・ショートとして、カープの3連覇に大きく貢献した。2019年以降は苦しいシーズンが続いている。今季は復活かけたシーズンとなる。

◆安部 友裕/あべ ともひろ
1989年6月24日生、福岡県出身。2007年に高校生ドラフト1位でカープに入団。一軍定着までに苦戦したものの、プロ9年目となる2016年に115試合に出場し、25年ぶりのリーグ優勝に大きく貢献。翌年2017年には初の規定打席に到達して打率3割を記録。リーグ3連覇に主力として貢献した。2022年限りで現役を引退した。

広島アスリートマガジン5月号は、「まだ見たい!もっと見たい!」勝利を知る経験者たちの魅力をお届け!カープ3連覇を支えた投打の主力たちの現在地に迫ります。