今シーズンからカープに加入した左腕・戸根千明。プロ9年目通算175試合全てが中継ぎとして登板のスペシャリストだ。チームが危機に陥っている場面だからこそ、その真価が発揮される中継ぎというポジションにおいて、彼は一体どんな気持ちでマウンドへ向かうのだろうか。

今シーズンから始まった現役ドラフト1号として、カープに移籍した戸根千明。

チームの良い雰囲気。居心地の良さを感じる

─今シーズンからカープに移籍された戸根投手ですが、ここまでカープはどんなチームという印象を持たれましたか?

 「第一印象は、野手も投手もすごく仲が良いチームですね。新井(貴浩)監督もおっしゃっている『チームは家族だ』という言葉の通りだと思います。カープという家のなかでみんなが暮らしている、もちろん僕もそういう意識があります。先輩後輩、年の差なんて関係なく、家族のような温かさがあるチームだと思いますね」

─その温かさというのは、高校時代や大学時代などのチームの雰囲気に似たような感じでしょうか?

 「同じ釜の飯を食う、そういう学生野球のころのような温かさを感じています。すごく居心地が良いですね」

─カープと対戦していた頃はどんなイメージでしたか?

 「やはりやりづらいチームでした。3連覇した時なんて、タナキクマルトリオがいて、鈴木誠也(現カブス)にエルドレッド。特に最初の3人には投げづらかったですね。鈴木の前にまず3人をどうするか、そして鈴木を抑えても、エルドレッドです。先頭打者や3番までを塁に出さなければ、なんとかなるかなくらいの感覚でした。機動力があり、打つ方のもはすごいですし、投げる側からすれば苦労しました」

─新井監督とのコミュニケーションのなかで感じた人間性などを教えてください。

 「投げ終わったあとはもちろん、試合前にも、これまでの試合について話させていただくことがあります。新井監督の方から選手に歩み寄ってくれますから、疑問に思ったことや、自分が感じたことを直接話せる距離感を大切にされておられます。そういった配慮をしていただける監督ですので、選手にとって、とても有り難い存在です。ですから僕も、これまでの経験を伝えるため、若い選手たちとブルペンで一緒に話をしています」

─巨人時代からこれまでの間、マウンドに上がるまでの気持ちの準備の仕方や、ルーティーンなどありますか?

 「ルーティーンはすごく大切だと思います。たとえば靴下は必ず右足から履く、球場までのルートは必ずここを通って来るなど、その人が気持ちを整えるための一つの方法です。でも僕は『試合は生きもの』だと思っていますから、全くルーティーンを気にしないです。その日によって試合状況は変わってきますからね。
 同じルーティーンを辿ることも大切だと思いますが、僕は生き物である試合に対して、臨機応変に対応していきたいと考えています。だからあまり拘らないようにしています。いつも左足から履いている靴下を右足から履いてしまった。それだけで心が少し動いてしまったり、ルーティーンとして自分の行動を決めつけすぎると、がんじがらめにしてしまうような気がしています。

 今回のテーマであるスペシャリストが登場する試合の局面なんて、絶対に同じ状況はありませんからね。自分が常に同じコンディションで、打者もいつもと同じコンディション、試合状況も同じ場面で投げるなんて、絶対にありえません。だからこそ臨機応変に対応していきたいと、今は気にしないようになりました。過去には僕もルーティーンを決めてやっていたことがありましたけど、全て止めて今では特にしなくなりました」

——野球以外のことで気持ちがブレないようにしたいという思いでしょうか?

 「規則正しい生活リズムをつくるのはすごく大切ですけど、ルーティーンで何でもかんでも決めるのは、自分を締め付ける要素になりかねないと思っています。キモとなるポイントはしっかりと決めて、あとは流れのままに対応していくというのが自分には合っています」

——ブレない気持ちが、リリーフとしてマウンドに上がるうえで大切だと?

 「そうですね。絶対絶命の場面でマウンドへ上がれと言われることもありますし。そんな場面では、目の前の打者に対して一球ずつ自分の球を投げ込んでいくだけです。それで打たれてしまった、四球を出してしまった、良くない結果を出してしまったときに、ルーティーンを欠かさずやっていると、そのせいにしたくなります。でも僕はそう考えたくない思いがありますから、自分の気持ちをしっかりと保ってマウンドへ上がっています」

●とね・ちあき
1992年10月17日生、京都府出身。石見智翠館高-日本大-巨人(2014年ドラフト2位)-広島(2023〜)。プロ入り初年度から中継ぎとしてマウンドへ上がり、プロ1年目は46試合に登板し防御率2.88と素晴らしい成績を残す。そこから巨人の中継ぎとして定着したが、近年は出番が少なくなったため、2022年に初めて開催された現役ドラフトでカープへ移籍。今シーズンは17試合に登板し防御率3.68という成績を納めている(成績は6月12日時点)。