7月にはC大阪から加藤陸次樹が、そして8月には横浜FMからマルコスジュニオールが加入するなど、夏の移籍市場を賑わせたサンフレッチェ広島。リーグ戦再開後は離脱選手の復帰もあり、熱い試合でファン・サポーターを盛り上げている。

 ここではOB・吉田安孝氏が、7月のサンフレッチェを振り返る。巻き返しを図るチームのなかで、注目すべきポイントとは。(記事中のデータはすべて7月25日の取材時点)

技ありのアシストを決めた柏好文。8月5日のアウェイ湘南戦でJ1・J2通算400試合出場を達成した。

◆勝利への執念を垣間見た、まさに 90分間の 『激闘』

 7月16日の横浜FC戦(▲1ー1)も、選手たちの「勝ちたい」という思いがひしひしと伝わってくる試合でした。

 この試合は、我慢の展開が続くなか、後半41分という厳しい時間に先制点を許してしまいます。しかし、そこで諦めず相手ゴールに果敢に挑んだサンフレッチェは、アディショナルタイムの94分、ついに同点に持ち込みました。

 このゴールシーンでは、なんといっても、柏好文の経験値の高さが光っていました。

 横浜FCのGK、スベンド・ブローダーセンの一瞬の隙をついてボールを奪った柏は、冷静にピエロス・ソティリウへパスを供給。負傷で一時離脱していたストライカーの復帰後初ゴールを生み出しました。あのシーンでは、両チームの選手が上がっていくなか、柏も一度は前に出る素振りを見せました。しかし、ブローダーセンの動きを見て一度下がり、足音に気づかれないように間を置いたのです。これは、柏がGKの癖を把握していたからこそできた絶妙なプレーであり、苦しむチームを救う素晴らしいプレーでもありました。

 さらにこの試合では、終了の笛が鳴った瞬間、両チームの選手がピッチに倒れ込む姿が見られました。それほどまでに、サンフレッチェの選手たち、横浜FCの選手たちそれぞれが、お互いのすべてを出し切って戦ったということでしょう。

 特に試合終了間際は、サンフレッチェが相手ゴールに襲いかかる場面もありました。次から次へとシュートを放ち、なかにはわずかに枠に弾かれた惜しいシュートもありました。どんな局面であっても諦めないという、まさに、勝利への『執念』を感じられる姿です。こうした苦しい経験は今後のチームに絶対に活かされていくはずですし、ともすれば負けてしまったかもしれない試合で、1ポイントずつを積み上げることができたという経験は、今シーズン、ここから先の試合にも活きてくるのではないかと思います。

 ここまでの試合を見ていると、昨シーズンの快進撃を受けて、周りのチームが非常によくサンフレッチェを研究しているという印象があります。昨シーズンのサンフレッチェは、前からの守備、ショートカウンターで威力を発揮して得点を量産してきました。しかし今シーズンは、そうしたサンフレッチェのスタイルを相手チームが警戒し、さまざまな対策を講じてきています。その結果、チームは苦しい戦いを余儀なくされているわけですが、これは想定内のこと。さらにレベルアップするためにも、乗り越えなければならない、試練の時を迎えているのだと思います。

 昨シーズンからスキッベ監督のもとで取り組んできた『前からのプレッシング』は、サンフレッチェの強さを支える武器です。しかし、今はその強度が少し落ちてきている印象があります。ここから一つでも順位を上げていくためには、選手一人ひとりがさらに戦術を突き詰め、チームとしても、改めて追及していかなければならないのではないでしょうか。