2019年5月以来となる10連勝で、一時はセ・リーグの首位に立ったカープ。西川龍馬の離脱や外国人選手の不調など、アクシデントに見舞われるなかでも僅差の試合を勝ち切り、着実に貯金を積み上げてきた。カープOB・大野豊氏が、逆転Vへのキーマンを独自の視点で解説する。(数字は全て7月12日時点)

『4番目の打者』として活躍した上本崇司。

◆選手の特性をうまく活かした、新井貴浩監督の起用法

 交流戦後も好調な新井カープ。やはり、苦手の交流戦を5割で乗り切ることができたことが、チームにとっては大きかったのではないでしょうか。6月末からは6連勝もあり、さらに7月に入ってからは10連勝もありました。なかでも、僅差の試合をほとんど落としていない点では、ターリーや島内颯太郎といった、リリーフ陣の頑張りによるところも大きいでしょう。一番の懸念は栗林良吏の不調でしたが、代わってクローザーに起用された矢崎拓也が非常によく頑張ってくれているのもポイントだと思います。

 新井貴浩監督も、『8月が勝負』と話していましたが、私個人としては、8月の戦いに加え、本当の勝負は9月になるのではないかと思っています。現在セ・リーグでは、カープと阪神が首位を争っています。ここからは今まで以上に、いかに勝ち越しを増やしていけるかがカギになってくるでしょう。投手陣も、この強烈な暑さのなかでしっかり投げ切ってくれれば良いですが、疲れも出てくる時期です。そんな時こそ、野手陣の頑張りにも期待をしたいものです。

 ここまで、不調の選手やケガ人が出ているなかでも、新井監督は非常に落ち着いている印象があります。今いるメンバーをしっかり見極めながら、適材適所で起用していると思います。若い選手、ベテラン選手それぞれの起用法も踏まえて、非常に選手の使い方がうまい監督だという印象です。「西川がいないから勝てない」、「外国人選手がいないから……」といった声が聞こえてこないということは、チームの状態が良い方向に向かっていることの証でもあります。

 7月からは上本崇司が4番打者を務めましたが、これはまさに、新井監督ならではの采配だったと感じました。確かに上本は4番というタイプの打者ではありませんが、つなぎ役になったり、チャンスメークしたりと、いろいろな技を使うことができるタイプの4番です。非常に粘り強い打撃ができる選手でもありますから、『4番目の打者』として、うまく機能してくれているのではないでしょうか。

 私自身は、現役時代もあまり夏が苦手ではありませんでした。もちろん、先発とリリーフでは調整方法も異なりますが、私は夏こそしっかり汗をかいて、体のキレを出すためにショートダッシュをするなどトレーニングを重ねていました。そうすることで体のキレも増し、投球のキレも増すという感覚がありました。もちろん、現在とは暑さのレベルも違っていましたが、あまり「暑い」ということを口に出さないように、気持ちで暑さに負けてしまわないように、ということを考えていました。今の選手たちは過酷な暑さとの戦いにもなるでしょうから、さらにオンでもオフでも気をつけなければならないことが増えているのではないかと思います。この厳しい夏場を乗り越えて勝負の9月に入っていくためにも、8月の戦いは非常に大切になってきます。