思わず心を奪われる! カープの話題をゆる~くまったりと展開してくれる“オギリマワールド”。関東出身ながら中学生からカープファン。独自のタッチで描かれるイラストを交えたコラムでおなじみのオギリマサホが、広島アスリートマガジンWEBで、新たなカープの魅力を切り取る。今回は、先日行われた夏の甲子園で、見事107年ぶりの優勝を手にした慶応高出身『矢崎拓也』について、オギリマ視点でゆる~く取り上げる。

エスコンフィールでトラクター風リリーフカーに乗って登場した矢崎選手(イラスト:オギリマサホ)

 今年の夏の甲子園では、慶応高が107年ぶりに優勝を果たして話題となった。

 慶応高はこれまで夏の甲子園に19回出場しており、同高出身の現役プロ野球選手も7名いるほどで、優勝しても全く不思議ではない。しかし慶応高と言えば偏差値75〜76の超難関校で、学校現場に身を置く者としては「文武両道で凄いなあ」というのが率直な感想でもある。

 その慶応高出身の現役選手の一人が矢崎拓也だ。他の現役選手と同様に、慶応高から慶応大に進学した後に、2016年ドラフト1位でカープに指名され入団した(入団時は加藤姓だが、ここでは矢崎で統一する)。

 入団時の受け答えや、入寮時に確定申告の本を持参したエピソードなどを見ていて、「やはり頭が良いのだろうな」と感じていた。同時に無表情で、少々とっつきにくい印象があったことも否めない。

  2017年4月7日、プロ初登板で9回一死までノーヒットノーラン投球を続けて初勝利をおさめ、華々しいデビューを飾った矢崎であったが、その後はあまり振るわず、矢崎の情報を知る機会も少なくなっていった。そのため、矢崎に対する印象も変わらないままだった。

 ところが昨年、中継ぎ要員として矢崎は活躍し、47登板で2勝0敗1セーブ17ホールド、防御率1.82と素晴らしい成績を残した。今年はシーズン初めに不調であった栗林良吏に代わりクローザーを務め、現在までに22セーブを挙げている。

 SNS上では「学歴でねじ伏せろ矢崎拓也」という言葉があちこちで見られるようになり(学校現場に身を置く者としては、あまり好きな言葉ではないのだが)、相変わらず「頭の良さ」がクローズアップされていることがわかる。一方、「頭の良さ」だけではない、さまざまな矢崎の側面も垣間見ることができるようになった。

 たとえば抑えた時の笑顔がかわいらしいこと。普段リリーフカーには乗らないのに、日本ハムとの交流戦ではエスコンフィールドのトラクター風リリーフカーに乗って登場したこと。トラクターに乗ってみたかったのだろうか。

 矢崎は今回の慶応高優勝に際し、「自分は高校時代、自由にやらせてもらった。慶応高で自分で考えることが身に付いた」と語ったという(※注1)。慶応高が矢崎の人となりを育てたのだとすれば、今後もその自由な側面をもっと見てみたい、と期待してしまうのであった。

※注1:中国新聞・2023年8月23日(https://www.chugoku-np.co.jp/articles/amp/350449)

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オギリマサホ
1976年東京都出身。イラストレーターとして雑誌や書籍等の挿絵を手掛けるかたわら、2018年より文春オンライン「文春野球コラム」でカープ担当となり独自の視点のイラストコラムを発表。著書に『斜め下からカープ論』(文春文庫)がある。