◆あの日の甲子園の風景は一生忘れられない
いくらチームがゾーンに入っていようとダメなものはダメなわけで、特に監督である自分がそれを見失っていてはいけないと感じていた。ただ、それをチームに伝えるかどうかは別問題。チームの状況が良いので、この時期はかなりソフトに伝えていたと思う。
僕の監督4年目のシーズンは勝率は5割に届かなかったが、16年ぶりのAクラス、初のCS出場という結果を残して幕を閉じることとなった。
そしていよいよ初めてのCS。CSを前に僕はメディアの方々に「選手に勢いを感じています」ということを言っている。それはウソのない本当の気持ちであり、自分自身に言い聞かせているようで、選手に対してのメッセージでもあった。
「ここで余計なことを考えるなよ」と。「我々は3位だし、プレッシャーなんて感じる必要はない。ただ、日本シリーズに行けるチャンスはもらったんだから、思い切ってプレーしましょう」と。
その言葉通り、チームは勢いのまま戦ってくれた。そしてその後押しをしてくれたのが、甲子園に駆けつけてくれたカープファンだということは間違いない。あの日、僕たちが目にした甲子園の風景は一生忘れられないものだ。
僕たちはCSに出場するのが初めてということで、これまでと違う雰囲気を感じていた。とにかく周りを取り囲むメディアの数が尋常ではない。あれはチームが優勝した91年以来の多さではないだろうか? だから多少は固くなっていたところもあったかもしれない。
甲子園に入ったときも、最初は異変を感じなかった。スタンドを見て赤が目立つなとは思っていたが、僕らが座る三塁側のベンチからはライトスタンドと一塁側しか見えないので、球場全体がどんなことになっているのか試合が始まってからもしばらく気づいていなかった。