◆CS 2戦目に飛び出したビッグプレー
それが選手交代を告げるとき、グラウンドに入って振り返ると……あの瞬間、僕は全身がブルブルと震えた。血が騒ぐような感じだった。レフトスタンドが全面真っ赤に染まっている。敵地・甲子園で目の前がすべて真っ赤なのだ。あれはうれしかったし、ありがたかった。そしてこの勢いで最後まで勝ち進みたいと身体にもう一度力がみなぎった。
10月12日、CSファーストステージ阪神戦。この試合、予告先発がなかったので阪神が誰を持ってくるのかわからなかった。しかしこちらは隠すものがない。カープはマエケン(前田健太)しかなかった。阪神は能見篤史と見せかけて、ルーキーの藤浪晋太郎。戦いの火ぶたは切って落とされた。
この試合は勢いのまま勝たせてもらった。1点をとってからは余計な力が抜けて、キラ、丸、岩本(貴裕)と解き放たれたようにホームランが出た。リーグ終盤からの勢いは途切れず、そのままCSに雪崩れ込んだような格好で、最終的には8対1で獲ることができた。
2戦目はなんといっても2回に飛び出したエルドレッドのビッグプレーに尽きる。1点を先行された状態で、ワンアウト一塁から藤井彰人のレフトへの大飛球をジャンピングキャッチ、それをすぐさまセカンドのキクに返球し、一塁に送ってダブルプレー完成。
あれでバリントンが立ち直ったし、チームの勢いが加速した。そして終盤、阪神投手陣を打ち込んで7対4で逆転勝利。敵地で、それもたったの2戦で勝ち抜けを決めてしまったのだ。あのプレーはケガを恐れず何事にも全力で取り組むエルドレッドの姿勢が呼び込んだものだった。それがきっかけとなって摑むことができた勝利だと思っている。
●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。