2023年のセ・リーグ王者は決まってしまったが、新井貴浩率いるカープは、開幕前の下馬評を覆して、現在2位。これはコーチ経験のない監督初年度のチーム成績としては、立派なものだと誰もが認めるだろう。チームを『家族』にたとえ、監督となっても背中で選手たちを牽引していくマネジメントは、実に新井監督らしい姿でファンを楽しませてくれる。
一方で2010年から5年間カープを率い16年ぶりのAクラス入り、2016年には25年ぶりとなる優勝への礎を築いた野村謙二郎元監督も、独自の指導論やチームマネジメント術を持っていた。監督を退任した直後に出版された野村氏の著書『変わるしかなかった』から、その苦闘の日々を改めて振り返ってみる。
指導方法の変化は自分の中ではとても大きいものだった。それは単に教え方を変えたということではなく、僕にとっては物事の捉え方、自分の考え方を一大転換させることでもあったからだ。以前も話したように、僕は野球人として指導者に厳しく育てられてきた。
何度も叱られ、何度も怒鳴られ、なにくそと這い上がってきた野球人生だった。それが基本にあるので、最初は自分が受けた指導と同じように選手には厳しく接するのがいいと思い、実際そのように行動していた。
しかし1年経ったとき、はたしてそれでいいのだろうかと思ったのだ。若い選手にかつての自分の姿を重ねることは正しいのか。もちろん優しくするとか甘やかすとか、それは自分の本意ではないし、これまで自分が受けてきた指導とは180度違う。
だが、僕はこのように考えることにした。「世の中、自分が基本じゃないんだ。僕は特殊なケースだったのだ」と。そんなふうに考えてみると、黙って見守るという新しいやり方もそれはそれで正しいことのように思えてきた。
普通、人は自分がしてもらって良かったと思うことを、他の人にもしてあげようとする。しかしそれはその経験が普遍的なものであればこそ成り立つもので、僕の場合はまったく他の人の参考にならない例だったのだ。
そもそもすべての選手の目的は「野球がうまくなりたい」ということで、それはいつの時代もどんな選手も変わらない。同じ頂に登るためにみんな日々努力しているが、そこにはいろんなルートが存在する。