Jリーグ創設以来30年間、ホームスタジアムとしてサンフレッチェを見守り続けてきたエディオンスタジアム広島。ビッグアーチと呼ばれた時代から、ここでは多くの記録と記憶が誕生した。ラストイヤーを迎えたエディオンスタジアム。そこに刻まれた紫の足跡を、関係者たちの言葉で振り返っていく。

 連載第3回は、 長年『主務』としてサンフレッチェを支えてきた坂田康彰さんが登場。縁の下の力持ちとしてチームとスタジアムをそばで見守り続けてきた坂田さんが、J2降格、そして3度の優勝の瞬間など、エディスタで過ごした日々を振り返る。

エディオンスタジアム広島で、選手バスを出迎えるサポーターたち。

あらゆる管理・調整を一手に担い、チームを支える『主務』の仕事

ーまずは、坂田さんが担当されていた業務について教えてください。

「僕は現在、運営部に所属していますが、2003年にサンフレッチェに入った当時は、『副務』という業務に就いていました。『主務』と『副務』という役職があり、主務が主にトップチームを担当し、副務はサテライトリーグ(トップチームの試合に出場しないメンバーによるリーグ戦)に出場するチームの担当をしていました。僕はミハイロ・ペトロビッチ監督が就任された年に主務になり、J2降格や3回の優勝までを体験しました。ペトロビッチ監督、森保一監督の下で主務を務めていました」

サンフレッチェ広島で主務をつとめた坂田康彰さん。

ーまさにクラブの歴史とともに歩まれてきたのですね。主務という業務の内容について、詳しく聞かせていただけますか。

「主な仕事はチーム全体の管理です。スケジュール管理、遠征手配、開幕前のキャンプの手配など、チームに関わるあらゆる業務を担当していました。例えば練習場所の確保一つをとっても、連戦で遠征が続くと、練習のために安芸高田市サッカー公園(以下、吉田)まで戻るのが難しい時もあります。そんな時には、エディオンスタジアム広島(以下、エディスタ)を使わせてもらえるように、施設と交渉するのも仕事の一つでした。特に僕が入ったばかりの年は、トップチームが遠征前にエディスタで練習をして、サテライトが吉田で練習するというスケジュールもありました。準備は主務が行っていましたが、主務はトップチームと一緒に移動するので、練習後の荷物はエディスタに置いたままになってしまいます。当時は、まずは朝、吉田で準備をして、エディスタに移動して荷物を片付けて……という生活でした」

ー主務になってからはトップチームに帯同されることになり、エディスタで過ごす時間も長かったと思います。

「そうですね。20年近くエディスタのお世話になってきました。施設の方たちも、サンフレッチェをすごく後押ししてくださっているんです。色々なスタジアムに遠征しましたが、試合前日に練習でピッチを使わせてくれるところは珍しいのではないでしょうか。なおかつ、こちらとしては試合当日のピッチの状態も良くしてほしいとリクエストを出すわけです。色々無理をお願いしてきましたが、それでもほぼ制限なく試合前日にピッチを使わせていただけて、あのレベルのグラウンドを維持していただけるというのは感謝の一言です。本来なら休館日の日に、連戦のために無理を言って練習に使わせていただいたことも何度もあります。練習場の地理に関してはどうしようもないところがあるので、そういう時に協力をしていただけたことも、本当にありがたかったですね。ピッチだけでなく、ロッカールームでも選手が気持ちよく過ごせるように、色々な工夫をしていただいていました」

ー主務時代に感じていた、エディスタならではの特徴はありますか?

「一つは、やはり陸上競技場なので、ベンチとロッカーまでの距離があるところですね。試合中、ロッカーで作業をしているとピッチで何が起きているかが分かりづらいというところはありました。なんだかざわついているけど、歓声が大きかったから点を取ったのかな? 逆に小さかったら、点を取られたのかな? と(笑)」

ー中にいると試合の状況が分かりづらいのですね。作業が終わると、ピッチに出て戦況を見守るのでしょうか。

「ベンチに入れるのは選手、監督やコーチだけなので、僕たちはベンチの後ろの方にいることが多いですね。ただ、試合中もやることはたくさんありましたから、常に何かが起きたら対応できるように待機していることが多かったです。試合のある日は大体キックオフの4時間前くらいまでにスタジアムに入って準備をしなければならないのですが、エディスタの場合はある程度勝手も分かっていますし、スタッフのみなさんとも連携が取れているので気持ちの面では少し楽でしたね。昔はサポーター向けのスタジアム見学会もやっていたので、ロッカーの準備をして、サポーターのみなさんを案内して……そのうちにチームバスがやってくるので選手を迎えて、と、慌ただしかったことを覚えています」