家族一丸、全員野球で突き進んだ監督初年度。カープ新井貴浩監督は、常に選手を信頼し、若手とベテランの力を見事に融合させてチームを2位にまで躍進させた。素直に、がむしゃらに戦った2023年の裏側と、2024年シーズンへの思いを聞いた。

得点シーンでの姿も話題となった新井貴浩監督

「本当に選手たちがよく頑張ってくれたシーズンだったと思います。開幕前、下馬評があまり高いものではありませんでしたが、私も選手たちも『見とけよ!やっちゃるけぇの!』と、かなり燃える要素になっていました。開幕当日、球場へ向かう前に選手全員を集めてミーティングを行なったのですが、『カープに対して周りの評価はすごく低いけど、お前たちの力はそんなもんじゃない』と伝えました。『俺は分かっているし、絶対やってやるぞ!』と伝えてスタートしました」

 カープは2019年から2022年まで4年連続Bクラス。新指揮官である新井監督は指導経験がない。開幕前の評論家の順位予想は軒並みBクラス。新井カープは評価が低い中では開幕を迎えていた。だが、この下馬評の低さが新井監督と選手たちに火をつける要素となっていた。

 新井監督は就任時から明るく振る舞い、キャンプでは選手とのコミュニケーションを重視した。そして現役時代同様にチームを「家族」と表現。シーズン中、“開幕ミーティング時にあった監督からのある言葉”が背中を押してくれていたと証言する選手が多くいた。

「苦しい時は俺の姿を見てくれ」

 新井監督はシーズン中、ベンチ内では常に喜びを体全体で表現し、選手を常に鼓舞し続けた。この姿にチームは引っ張られていたのだろう。この言葉の真相について、新井監督はこう説明してくれた。

「やはり監督はチームのトップですし、子どもを預かっている親のようなものです。子どもって、親を見ていますからね。だから、苦しい状況になったら『俺を見てくれ』というつもりで言わせてもらいました。あれは(全身で喜ぶ姿)、“素”でやってるので、“喜ぼう”だとか全く計算していないです(笑)。現役時代、一緒にプレーした選手もたくさんいる中で、自分の立場が監督という立場に変わりました。『監督とはどうあるべきなのか』と考える中で、『どういう風に接すればいいのか、どういう言葉をかければいいのか』考えても考えても答えは出てきませんでした。それであれば『自分の“素”をさらけ出してやっていこう』と決めました。サヨナラ勝ちで勝った瞬間などは、飛び跳ねて喜んでいる姿がよく取り上げられていたのですが、私自身は本当に素でやっていることでした。できるなら、カッコよくクールに決めたいんですけどね(笑)」

 チームは開幕から4連敗を喫し、“予想通り”の苦しいスタートを切った。しかし、選手たちを信じる新井監督は全く焦りはなかったという。

「『選手たちの力はこんなもんじゃない』と信用していましたから。少し噛み合ってくれば、すぐ勝てるようになると感じていました。思い返せば、4連敗中は信じられないようなミスが出ました。野間(俊祥)の守備や、キク(菊池涼介)の走塁ミスも初めて見ました。ただ、逆にうれしかったと言うか、それだけ前のめりになって『勝ちたいと思ってプレーしてくれているんだ』とベンチにいて感じていました。とにかく必死になり、『チームのために勝ちたい。みんなで勝ちたい』と思ってプレーしてくれている姿が、すごく伝わったてきていたので、全く焦っていませんでした」

 3・4月を12勝12敗の5割で乗り切ると、5月は13勝11敗、6月も14勝9敗と勝ち越すなど、チームは次第に勢いに乗っていく。シーズンの中で監督は「戦いながら強くなる」というコメントを重ねた。チームは粘り強い戦いで勝利を積み重ねていくなかで、監督自身が流れを感じたのは、カープにとって“鬼門”と呼ばれている交流戦だった。

「伝統的に交流戦が得意ではないと言われていると思うのですが……、私としては『そんなもんは関係ない!』という思いでした。いざ交流戦がスタートすると、対戦相手の先発投手がほぼ表のローテでした。ですが、強力なパ・リーグ投手陣を相手に五分に戦えて、勝率5割で乗り切ったことで『戦えるまで強くなってきているぞ』と手応えがありました。また羽月(隆太郎)や、矢野(雅哉)など若手も交流戦では起用しましたが、彼らのプレーを見ていて『これは徐々に力がついてきているぞ』という手応えもありました」

 多くの若手選手が躍動した交流戦、カープはこの鬼門を5割で乗り越えた。交流戦明けには10連勝をマークし、一時首位に立つなど阪神との優勝争いを演じる戦いぶりを見せた。シーズン終盤、優勝こそ逃したものの、DeNA、巨人とのAクラス争いに競り勝って、5年ぶりのAクラスとなる2位でフィニッシュ。見事に地元でのクライマックス・シリーズ開催を勝ち取った。

 ファンの大声援もあり、2連勝でCSファーストステージを突破。勢いを持って王者・阪神とのファイナルステージに臨んだが、結果は3連敗。新井カープの1年目の挑戦はここで終了した。激闘のCSを指揮官はこう振り返った。

「純粋に阪神が強いと感じました。阪神打線は基本的に固定されていますし、その固定されている選手が軒並み若い選手が多いので、『この強さはこれからもしばらく続くだろうな』と感じました。ただ『自分たちも負けてないぞ』と思っています。結果的に3連敗で終わってしまいましたが、選手たちが必死にプレーする中で『どうにもならない3連敗』ではなかったと思います。だからこそ2024年は「阪神に追いつけ!追い越せ!」で頑張っていきたいと思います」

 2023年のキャッチフレーズの通り「がむしゃら」に突き進んだカープと新井貴浩監督。改めて監督として大事にしたことを聞いてみた。

「正直に接していくこと、 真心を持って選手と一緒にやっていくということは心がけていました。嘘をつかないということですね」

 素直に、正面から選手にぶつかり、選手を信じ続けてきた。その結果、選手たちの見えない力を引き出し、下馬評を覆す結果を出した。そして、今シーズンに向けて期待が膨らむ言葉で締めくくってくれた。

「昨年以上に、2024年はファンのみなさんを喜ばせます。ワクワクさせたいので、どうぞ、楽しみにしておいてください!」

 監督2年目となる2024年、カープの指揮官はどのような戦いを見せてくれるのか。その言動に注目だ。