2015年、３度目となるJ1リーグ優勝を果たしたサンフレッチェ広島。エディオンスタジアム広島ラストイヤーとなった昨季、長きに渡り広島の守護神として活躍したGK・林卓人が、シーズン限りでピッチを去った。
今シーズンからコーチへの就任が発表されている林氏が、サンフレッチェ広島OB・吉田安孝氏とともに、23年の現役生活を振り返る。（取材は2023年12月。全5回・最終回）
◆サッカーとサンフレッチェが、人として成長させてくれた。
吉田「改めて現役生活の23年間を振り返ってみて、長かった？ それともあっという間という感覚だったかな」
林「頭で考えると一瞬ですね。23年もやったという実感はありません。だからきっと、『あっという間だ』と感じるくらい、楽しかったんでしょうね」
吉田「正直、やろうと思えばまだプレーできるという思いはあった？」
林「どうでしょう……。ただ、プレーを続けるにしてもカテゴリーは下げるしかなかったのではないかと思っています。実際、その選択肢も一瞬頭をよぎりましたが、僕自身、新スタジアムでプレーしたいという思いが強かったんです」
吉田「それは、アウェイチームであっても？」
林「はい。真剣勝負の中で、新スタジアムに立ちたかったんです。もちろんサンフレッチェの選手として新スタジアムのピッチに立つのが一番の理想ですが、それが叶わないのであれば対戦相手としてでも、観客が入った真剣勝負の中で立ちたいと思っていました。ただ、J1のクラブでレギュラーをつかまないと、それは難しいですよね。自分のパフォーマンスや年齢を考えると、厳しいのではないかと感じるようになりました。サンフレッチェから次の道の話もいただいて、最初は迷いましたが、現役最後の1年半くらいは苦しい中でもそこから逃げずにやってきたという自負もあったし、やりきったという思いも湧いてきました」
吉田「そうして悩んで、広島で現役を終える道を選んでくれたんだね。以前から、『現役を終えるなら広島がベスト』という話もしていたと思うんだけど、その背景にはクラブへの思いがあったのかな」
林「そうですね。『現役を終えるならここで』という気持ちになれたのは、やっぱり広島が好きだから、という思いがあったからですね。広島は、選手はもちろん、素晴らしい指導者を生み出しているクラブでもあるので、これからは、まずはそこを学びたいと思っていますし、その情熱を受け継いでいきたいとも思っています。そしていずれは、多くの選手の成長に関われるような存在になっていけると良いですね。選手たちと一緒に成長させてもらいたいです」
吉田「卓人のこれからの活躍にも注目だね。では最後に、『卓人にとってサンフレッチェ広島とは？』。この質問で、締めたいと思います」
林「難しいですね（笑）。僕を本当に成長させてくれたのがサッカーだと思っています。サッカーがなかったら、どうしようもない人間になっていたかも知れません。僕の人生を正しい方向に導いてくれたのがサッカーでした。そして、やりがいや、チームを取り巻く人のために頑張る大切さを教えてくれたのがサンフレッチェです。そのクラブに恩返しをしたいという思いは強いですね。サッカーもサンフレッチェも、僕を人として成長させてくれました。サッカーも、チームも、クラブも、すべては人で回っています。人との関わりで成長させてもらっているので、自分はサンフレッチェに加入することができて、運が良かったのだと思っています。サンフレッチェはそれだけ良い人材をそろえていますから。クラブを離れても成長ができる選手が多いのは、そうしたベースがしっかりあるからかなと思っています」
吉田「卓人の新たなステージでの活躍に期待しています」
林「はい、ありがとうございます。またいろいろ勉強させてください」
林卓人（はやし・たくと）
1982年8月9日生、大阪府出身
2001年、金光大阪高から広島に加入し、2002年からは下田崇らと共にプレー。札幌、仙台移籍を経て2014年に復帰すると、2015年のリーグ優勝に貢献。不動の守護神として広島ゴールに君臨した。2023年限りで現役引退。
