強肩・堅守を武器に存在感を増し続けているカープ・矢野雅哉。シーズン開幕後は主にショートでスタメン出場のチャンスを掴み、菊池涼介との二遊間コンビで幾度もチームのピンチを救っている。レギュラーを掴みかけている、背番号61の現在地に迫っていく。(全3回・第1回)

菊池涼介との二遊間が定着しつつある矢野

昨季の悔しさが原動力になっている

─今季プロ4年目になります。昨年プロ入り最多93試合に出場した中で、今季はどのような思いで開幕を迎えましたか?

「昨年1年間、ずっとレギュラーを奪うつもりで『チャンスが来た時になんとか』という思いでやってきたんですけど、それがなかなかうまくできませんでした。クライマックス・シリーズのファイナルでは阪神と甲子園で戦いましたが、1試合も出番がなくて……。自分の中で負けた悔しさと同時に、試合に出られない自分に対する悔しさがずっとありました。年が明けて、春のキャンプに入っても『レギュラーを取れないと、ああいうところで試合に出られない』という気持ちを持っていました。それだけに、今年は『レギュラーを取りたい』という思いが、より一層強くなっています」

─その悔しさが、現在の原動力になっているのですね。

「そうですね。その思いが本当にずっと自分の中にあって、開幕してからも、今もずっとです。とにかく『今年はやらないといけない』という思いを持ってプレーしています」

─昨年一軍での出場が増えたことが、自信につながる部分はあるのでしょうか。

「代走や途中守備であったり、役割が明確で、そういった経験をたくさんさせてもらいました。選手として良い経験になったと思っていますが、やっぱりそれで終わりたくないっていう思いが強かったですね」

─悔しさなど様々な経験をされていますが、野球に対して常に変わらない考えがあれば聞かせてください。

「中学校の頃からなのですが『明日死ぬかのように生きろ』という言葉を大事にしています。中学時代の総監督からこれは忘れるなと言われた言葉です。1日1日を無駄にせずに、明日はもうないんだぞと、その日その日を必死に生きようと。そういう意識を大事にし続けています」

─今シーズンは開幕一軍で迎え、4月は14試合スタメン出場。5月5日からはスタメン出場の機会が増えています。ここまで自身のプレーについてはいかがですか?

「やはり昨年一軍での経験ができたというのは大きいですね。特に打席のなかでの考え方は自分の中でも変わったと思いますし、守備での落ち着きというのも、昨年に比べればあるかなと思っています。ですが、先日のソフトバンク戦(6月1日・みずほPayPayドーム)のように、僕の1つのプレーで負けてしまうことが……。一軍の試合に出ている以上、責任があるんだなとより一層感じましたし、『僕で負けてしまった』という思いも、プロに入って初めての感覚でした。ミスは今までたくさんありましたが、あのようなミスで失点につながって負けてしまったので、本当に玉村(昇悟)に申し訳ない気持ちだけでした。とにかく悔しい気持ちでした」

─矢野選手はプロ入り前からショートでの守備力が注目されてきました。ショートに対する思いは強いですか?

「周りをしっかり見ないといけないポジションでもありますし、内野を支えるというのは、本当にショートの役目だと思っています。このポジションのそういった部分が本当に好きです。三遊間の深いところからアウトにするというのは、ショートにしかできないことですし、そういった意味で、自分が活きるのかなと思っています」

─守備時の肩の強さが注目されています。プロ入り前から特別なトレーニングなどは行っていたのですか?

「周囲に比べれば多少肩が強かったかなと思います。小さい頃からトレーニングはやっていましたが、主にリストを鍛えていました。遠投は得意でしたが、リストを鍛えることで『さらに強い回転で強い球を投げる』ことを目指していました。送球するときに最後のリリース部分で力を入れることがもともと弱かったので、握力も含めてずっと鍛えていました」

─自分で考えてトレーニングをしていたのですか?

「すべてお父さんが考えたトレーニングで、小学校5年から中学校3年までずっとやっていました。スナップスローも強くなっていきましたね」

(中編へ続く)