下馬評を覆し、夏場まで首位を走った2024年の新井カープ。リーグ随一の防御率を誇った投手陣と守備力で勝利を積み重ねた。しかし、9月に入ると急転直下の不調に見舞われ、シーズンは2年ぶりのBクラスに終わった。ここではカープOB大野豊氏が2年目の新井カープを総括する。(全2回/第1回)

指揮官に就任し2年目のシーズンを終えた新井貴浩監督。

圧巻の防御率を誇った投手陣と守備力で魅せた『守り勝つ野球』

 新井貴浩監督率いる2024年のカープは、リーグ最終順位を4位で終えました。全体を通しては、『真の4番』の不在が大きく響いた1年だったと感じています。

 首位を走っていた8月までは、投手の調子が良い一方で、打線がなかなか得点できない試合が続いていました。調べてみたところ、今季143試合のうち、『完封負け』に終わった試合が24試合(0ー0の引き分けも含む)、1得点だけの試合が30試合、2得点が22試合、3得点が18試合ありました。実にこれだけの試合が、「3点以内に抑えられてしまった」という試合だったのです。そのように打線の援護が少ないなかでも、なんとか投手陣と守備とで守り勝っていたのが、8月までのカープでした。ただ、なかなか点を取ってもらえない試合が続くなかで、投手陣には体力的な疲労はもちろんのこと、メンタル面での疲れがじわじわと蓄積していたのでしょう。それが、一気に9月に噴き出してしまったように見えました。

 振り返れば、好調だったシーズン前半戦であっても、『得点力不足』は大きな課題でした。ただ、投手陣の調子が良く勝ち試合が続いていたことで、肝心の『得点力不足』の部分にテコ入れすることができていなかったのです。好調の時こそ、そのなかで見つかった課題や不安の芽を改善するチャンスではありますが、開幕当初に期待されていた外国人選手が相次いで離脱するなど、首脳陣としても想定外のことで頭を悩ませていたことは想像できます。

 4番という意味では、期待されていた坂倉将吾が春先に出遅れたことも計算外だったのではないかと思います。5月には小園海斗が4番に座り、打率・368、リーグ2位の15打点をあげるなど活躍しましたが、徐々に低調になってしまいました。やはり、4番がどっしりと座っていてこそ打線は定まるものですから、今季、そこを固定することができなかったのは打線が苦しんだ理由の一つだと言えるでしょう。

 また、球団や首脳陣の意向もあり、夏場の外国人選手の補強はありませんでした。結果論ではありますが、その時点で助っ人を追加で獲得するといった考え方も必要だったのかもしれません。

 9月の『月間20敗』という記録には、選手も監督も悔しい思いがあるはずです。ただ、8月までできていたことが9月になって突然できなくなったというわけではないと感じています。あえて厳しいことを言うならば、『チーム力がなかった』、『1年保たなかった』というしかないでしょう。一気にその課題が噴出したのが9月だったというだけで、もしかするともっと早くにその傾向が出てきてしまっていたかもしれません。

 若い選手を起用して実戦のなかで鍛えていくのも良いことですが、来年はもっと『落ち着いた』打線も見たいと思います。とくに今シーズン終盤のカープを見ていると、打線の軸が定まらないといった印象で、「誰かが当たるだろう」と考えているようにも見えました。

『落ち着いた打線』というのは、すなわち安定感や安心感のある打線という意味です。三連覇を果たした頃は、打線もある程度固定化されており、そのなかで代打や代走で出てくる選手が効果的なアクセントになっていました。そうした強い打線を組むためにも、繰り返しにはなりますが、やはり『真の4番』の存在は必要です。

(第2回へ続く)