今や、日本のメディアで大谷翔平や佐々木朗希の名前を見ない日はないほど、MLBは大きなスポーツコンテンツとなった。MLBの日本語版公式サイト『MLB.jp』の若き編集長・村田洋輔さんは、どのようにしてMLBライターの道を切り開いたのか。ここではその半生に迫る。
◆野球に関わる仕事を志したきっかけ
——まず、野球に関わる仕事をしようと思ったきっかけを教えてください。
「小学6年だった2001年に、イチロー選手がMLBへ移籍しました。神戸に住んでいたので、地元のスター選手が海を渡るというのは大きなニュースでしたし、これをきっかけにMLBに興味を持ちました。もともと野球は好きでしたが、プレーしていたのは中学生までで、それよりもデータを見たり、チームの編成を考えたりすることのほうが好きな少年時代でした。そんな中、中学3年生のときに『マネーボール』を読んで、GMという仕事に憧れるようになったのも大きかったですね。その中で、大学進学後、就職活動が始まっても、週5日働いて週末休むという“普通の社会人”の生活が想像できませんでした。そこで、スポーツ新聞社や球団職員といったプロ野球に関わる仕事に絞って就職活動をしましたが、当然ながら簡単に採用されるような世界ではありませんでした。そこで、大学時代のアルバイトだった塾講師を本業としながら、趣味として野球に関わる生活を4~5年ほど続けることにしました」
◆MLBライターになるまで
——MLBライターとしてのキャリアは、どのようにスタートしたのでしょうか?
「2014年秋に日米野球が開催され、その出場選手のプロフィールをまとめたのが最初のきっかけです。せっかく30人分ほどの選手紹介をつくったので、選手名鑑として形にできないかと思ったのですが、準備不足もあり完成させることができませんでした。ただ、子どもの頃から“自分のオリジナル名鑑をつくりたい”という思いは漠然と持っていたので、『今年はプライベートの時間を全部犠牲にしてでもやってみよう』と決意し、2015年のシーズンが終わった10月から翌年3月初旬までの約半年間、ほぼすべての時間を費やして『MLB PLAYERS GUIDE 2016』という完全オリジナルのMLB選手名鑑を制作しました。とはいえ、選手の写真などはインターネットから拾ったものだったため、大々的に販売することはできませんでした。それでも、SNSでたまたま見つけてくれた方が「欲しい」と言ってくれたので、印刷費のみを負担してもらい、オンデマンド印刷で合計40冊ほどつくりました」
——そこから、どうやって本格的な仕事につながったのでしょうか?
「せっかくつくった名鑑なので、誰か影響力のある人に見てもらい、何かしらのきっかけをつくりたいと思っていました。そこで、“MLBロードショー”というイベントに行き、登壇していたMLB評論家の方に『こんなものをつくったので、見ていただけますか?』と直接話しかけてみました。すると、その会場にたまたま出版社のMLB担当の方が取材で来ていて、評論家の方が『本格的に仕事をしたいなら紹介してあげるよ』と、その方につないでくださったんです。その結果、2016年のシーズン終了後に発売されたMLB雑誌の記事を書くことになり、MLBライターとしての活動が始まりました。ただ、その時点ではまだ本業は塾講師で、ライター業は副業のような形でした。2017年に入り、何気なくMLB関連の仕事の求人を見ていたところ、MLBライターの募集を発見しました。特に本気で転職を考えていたわけではなかったのですが、とりあえず話を聞きに行ってみようと思いました。すると、『MLB.jp という日本の公式サイトのライターを探している』という話を伺い、待遇が劇的に向上するわけではなかったものの、公式コンテンツに関われるチャンスはそうそうないと思い、塾講師を辞めてライター業を本業にすることを決断しました」
◆これまでの経験と今後の目標
——MLBを取材する上で、英語力は必須かと思いますが、どのように学ばれたのでしょうか?
「スピーキングはあまり得意ではありませんが、中学・高校・大学と学校の勉強はしっかりやっていたので、MLBのニュースを読むことにはまったく支障がありませんでした。MLBの記事は、一部の専門用語さえ押さえれば、中学・高校レベルの英文法で十分理解できます。今になって、学校の勉強をしっかりやっていて良かったなと実感しています」
——過去を振り返って、もっと経験しておけば良かったこと、逆に役立ったことはありますか?
「もっと英語力があったほうが良かったなとは思いますね。学生時代にもっと英語に触れる機会を増やしていれば、今より役立ったかもしれません。また、野球を高いレベルで続けていれば、プレーヤー目線の視点を持てたかもしれないとも感じます。一方で、子どもの頃から文章を書くことが好きで、クラスで一番早く作文を書き終えてしまうようなタイプだったので、そのスキルは今の仕事に活きています」
——今後のキャリアについて、どのような目標をお持ちですか?
「MLB専門家といえばこの人、という存在になれたら良いですね。アメリカにはESPNのジェフ・パッサンやTHE ATHLETICのケン・ローゼンタールといった“MLBといえばこの人”と言える記者がいます。一方、日本では、パンチョ伊東さんはそう言える存在だったかもしれませんが、一般的には新聞社単位、出版社単位での業務になるので、個人で目立つ方は少ないのが現状です。将来的には、日本の記者がブレーキングニュースを一報で流すような時代が来ても良いと思っています。それを自分が出来るかは別として、もっと日本人の活躍の場が広がるように引き続き発信をしていこうと思います」
【プロフィール】
村田洋輔(むらた ようすけ)
1989年11月8日生まれ/兵庫県出身 東京大卒
2001年、イチローのマリナーズ移籍をきっかけに本格的にMLBに興味を持つ。2016年からMLBライターとしての活動を開始し、2017年から日本語公式サイト『MLB.jp』の編集長に就任。ジャンカルロ・スタントン(ヤンキース)と同じ日に生まれたことが密かな自慢。