2008年にMLBクリーブランド・インディアンスの、メディアリレーションズ部のインターンとしてキャリアをスタートした新川諒氏。通訳、ライターをはじめ、NBAワシントン・ウィザーズの日本向けマーケティングマネージャー、MLBシンシナティ・レッズのスカウティングコンサルタントを務めるなど、日米で幅広く活躍している。どのようにして新川氏はこの仕事を始めたのか。「ワクワクする仕事をしたい」と語る彼の生きざまに迫る。(全4回/3回目)

ハビアー・バエズ選手(2017年WBCプエルトリコ代表)と新川諒氏

◆チャンスに躊躇なく飛び込めたというのは、経験があってこそ

―これからの未来を担う学生の中でも“スポーツ業界”は人気の職種であると思います。仕事をする上で、必要な要素はなんだと思いますか?

「私の立場から言うと、語学力は欠かせません。そのお陰でいま仕事が出来ています。また、言語は外の世界を知るとか、多くの人に会うとか、そういったことにもつながる必要なスキルになります。アメリカの大学で最初に言われたのは『ネットワーキングの大切さ』でした。日本では『コネ』と言われることも多く、“グレー”な印象を持ってしまいますが、アメリカでは『スキル』と扱われるんです。学生のうちに自身のネットワークをつくり、いろんなところに行って、いろんなものを見てということが後に活きてくると思います」

―新川さんのこれまでの人生もネットワークが活かされているのですね。

「私の中で『ワクワクすること』というのは、『自分の想像の上をいくこと』と捉えています。特にフリーランスとして仕事をしていると、いろんな方々からのお声がけのおかげで、成り立っており、『こういうことはできる?』や、『こんな機会があるよ』と声をかけてもらうことが、自分のポートフォリオを増やすことにつながっています。そのためにはやはり自分が動かないことには始まらない部分もあります。スポーツマネジメントを勉強するために大学進学を決め渡米した時に、メジャーリーグ球団で通訳をやるなんて想像もしていませんでした。NBAで働きたいということも、当時からぼんやりと思い描いていましたが、実際にNBAのチームで仕事をすることにつながるとは思ってもみなかったです。NBAで働きたいと思って、単純にその目的に突っ走っていっても、おそらくたどり着けなかったと思います。ライターという仕事をいただいたことで、NBAと仕事をする機会を得て、2019年には『NBA Japan Games』の通訳を担うチャンスも得ることができました。その後のワシントン・ウィザーズでの最初の役回りとなるSNS運営もこれまでの経験はほとんどありませんでしたが、チャンスに躊躇なく飛び込めたというのは、これまでのいろんな経験があってこそだと思います」

ー今後はどのようなことに取り組まれていきますか?

「現在、ソディック エフ・ティという会社で、海外戦略新規事業シニアコーディネーターとして仕事をさせていただいていますが、今年が始まった時点では全く想像もしていなかったことです。これも人と人とのご縁がきっかけです。これまでは海外のチームやサービスの日本市場開拓に関わることが多かったので、今度は逆に日本から海外へということに携われたら良いなという気持ちがあります。両方のスポーツ界を見ていると、日本のスポーツ界にも素晴らしい取り組みがたくさんあります。それをもっと海外の人に知ってもらいたいと常に思っています。日本のスポーツ界の素晴らしさをもっと発信し、自分の立場で役に立てることがあれば全力で取り組みたいですね。一方で、これまでは多くの日本人アスリートの挑戦があったおかげで仕事を得ていましたが、今後は自らの力で再び海外に挑戦できる機会を目指していきたいなと思っています」

―海外との差や、日本のスポーツの魅力は具体的にどのような点があるでしょうか?

「まずは、どうしてもハード面、例えばアリーナやスタジアムなどを比較してしまいます。現在、日本にも素晴らしいアリーナやスタジアムができてきていますが、国土の広さや行政など、単純に比較できない部分もあります。ですが、例えばファンを楽しませる取り組みや集客方法などは遜色ないと思っています。細かい点を挙げると、マスコットビジネスやスタジアムグルメなどは、世界中を回ったわけではないですが、少なくともアメリカより日本の方が優れている部分も多いと思います。ただ、リーグ全体のビジネスや国際化という視点で見ると、日本で開幕戦を行うMLBやジャパンゲームズを開催したNBAなど、米国のリーグは海外での興行にも積極的でグローバルを常に意識し、世界トップのリーグをつくるという意識を持って、資金を外からも生み出すマネタイズの仕組みづくりが出来ていると感じます」

ー海外に向けた“マネタイズ”ですね。

「はい。ですが、日本国内にも素晴らしい取り組みはたくさんあります。例えば、Jリーグには『シャレン!』という社会連携の取り組みです。この取り組みを英語に翻訳して海外に発信するお手伝いをさせていただいたことがありますが、日本発で世界に誇れる素晴らしい取り組みが多くあると感じましたし、他にも私が知らないだけで素晴らしい取り組みも日本のスポーツ界にまだまだあると思います。そういったものをどんどん発信していくべきですし、海外を視察してのインプットも大切ですが、アジア圏の人をはじめ、もっと海外の人に日本の取り組みを知ってもらうアウトプットを行なっていき、資金を生み出す仕組みもつくっていければ、スポーツ業界だけでなく、全体的に良い循環になるのではないかと思います」

最終回に続く

新川諒(しんかわ・りょう)
1986年生まれ 大阪府出身。2歳から小学6年までシアトル、ロサンゼルスで過ごす。同志社国際高を経て、州Baldwin-Wallace Univeristy(米国・オハイオ州)大学在学中にクリーブランド・インディアンズで広報インターンを経験し、卒業後にボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで合計5年間日本人選手の通訳を担当。2017年からMLBシンシナティ・レッズのコンサルタント、2020年2月からはNBAワシントン・ウィザーズでマーケティング部のデジタルチームで日本語コンテンツを担当。その他、フリーランスとしてさまざまなフィールドで活躍している。