昨季、深刻な得点力不足に苦しんだ新井カープ。しかし一転して今シーズンは、6月上旬時点でチーム打率がリーグ上位を推移する。打撃陣の『変化』の要因は、一体何なのか。朝山東洋一軍打撃コーチに話を聞いた。(全3回/第3回)

シーズン序盤、4番として存在感を見せた末包昇大

◆結果を出してきている選手はたくさん苦しみ、たくさん練習をしています

─長打も含め、序盤から末包昇太選手が打線を引っ張っていた印象がありました。

「キャンプ、オープン戦の時期はあまり良い状態ではありませんでした。悪いときは、バットに当てにいくようなイメージでした。彼もアナリストの意見などを取り入れながら頑張ってきて、開幕直前の状態は上がっているように見ていました。開幕3連戦、出番はなかったのですが、開幕2カード目のヤクルト戦での練習時、彼の打撃練習を新井監督が見て『末包良いね』と話していたんです。そこでヤクルト戦でのスタメンを決めました」

─スタメンで今季初出場し、末包選手は一発を放つなど結果を残しました。

「そこから好調を維持していますが、空振りの仕方も良いと感じています。説明が難しい部分がありますが、僕らから見ていて『あの空振りであれば、当たればホームランになる』という感覚です。調子が悪いの空振りでは、ショートゴロになってしまうというものです。好調時は、空振りの質も非常に上がっていると見ています」

─4月中旬からは、末包選手が4番として固定されています。

「当初はモンテロの調子が良くて、開幕から4番にしました。すぐに故障離脱してしまったので、調子の良い末包を4番にしてから結果を残してくれています。昨年までは、4番を誰にするか?つなぎの4番にしてみたり、苦労した面がありましたが、今(5月上旬時点)であれば、4番は迷わず決められています」

─今シーズン、打線としてのテーマ、目標はどのようなものでしょうか。

「もちろんチーム打率が高く、得点数が高ければ高いほうが良いですが、一番は勝つことですね。1点でも投手が抑えてくれたら1点を奪いにいく。5点取られたら6点取る、そういう意識ですね。チーム打率が良くても試合で負ければ意味がありませんからね。また、昨秋のキャンプから藤井(彰人)ヘッドコーチとも四球が少ないことを話していました。いろんな要素があると思いますが、長打がないというのが影響している部分があって、相手投手も「打たれても単打」という意識で攻めてくるので、ストライク先行の投球となります。そうなると四球を取りにくくなりますよね。そう考えるなかで、四球=安打と同じわけですから、出塁率を上げれば得点力アップにもつながると思うので」

─四球を選ぶこともテーマの1つとなっているのですね。

「そうですね。たくさん安打を打つことは難しいかもしれませんが、選球眼ですよね。『今の球は少し我慢できたのでは』とか、打者心理として3ボールや2ストライクだと、投手は直球を投げてくると思いがちです。ただ、投手も人間ですから、次の1球に対して考え方を変えるだけで、四球を取れる可能性も上がると思っています」

─今シーズンのカープ打線をどのように見てほしいですか?

「秋も春もキャンプでたくさん振り込んできて、打ち負けないようにしたいと常に思っています。すぐに結果に出るものではないですが、選手の打席での粘りであったり、何とか変化球に対して空振りしない我慢、そういう形で選手は皆必死でプレーしています。うまくいかないことも多いですが、そういう部分にも目を向けていただきながら、応援していただきたいですね」

■朝山東洋(あさやま・とうよう)
1976年7月29日生
久留米商高-広島(1994年ドラフト3位-2004年引退)
現役時代は強打の外野手として活躍。2004年限りで現役引退後は、三軍、二軍でコーチを歴任し、若鯉選手の育成に尽力してきた。2020年から一軍打撃コーチに就任。長年の指導経験を生かし、同学年の新井監督と共に打撃力強化に力を注いでいる。