高い精度で上げられるクロス。『100万回見返せる』と称された極上のトラップ。しかし、サンフレッチェ広島・東俊希の魅力は一つひとつのプレーだけに止まらない。どのポジションでも結果を残せる万能性は、今のサンフレサッカーの体現者とも言える。「ピッチで優勝を体験したい」。東は今シーズンも、静かなる野望を燃やしている。(全3回/第1回)

精度の高いクロスも魅力のひとつ。CKではキッカーを任される場面も多い

サイドでのプレー経験が、ボランチでも活きていた

 「ルヴァン杯の優勝を、僕は観客席から見ていました」。

 2022年12月、広島が初のカップタイトルを獲得した日、東俊希はその歓喜の瞬間を国立競技場の観客席から見つめていた。2022年7月の試合で負傷し、同月末には左膝を手術。シーズンの後半はリハビリに費やした。

 スキッベ監督1年目のシーズン、東はその高い能力を評価され、それまでの主戦場である左サイド、WBにとどまらない複数ポジションで起用されボランチとしての能力を開花していた。誰もが認めるチームの主力。タイトルが狙えるシーズン途中での離脱に、東は正直な胸の内をこう語る。

「だから、優勝はうれしい反面、悔しいという思いもありました」

 複雑な思いを抱きながら歓喜に沸くピッチ上のチームメートたちを見つめ、「次は僕が、ピッチの上で優勝を体験したい」と強く感じ続けている。

 2025シーズン7月、サンフレッチェ広島は好不調の波に揉まれながらも、悲願の優勝に向けて熾烈な戦いを繰り広げている。今シーズンここまでの自身については、

 「シーズン序盤は自分の調子も悪くて、思うようなプレーが出せずにいました。ただ、5月中旬からボランチで起用されるようになると、新しい自分のプレーを見つけたり、良いプレーもいくつか出てきたと思っています」

 手応えを感じる一方で、課題もある。フィジカルの強度、走力、パワー。そして、視野の広さだ。

 「ボランチは360度を見なければいけない。自分のプレー動画を見ていると、『ここでターンができたな』『逆に展開できたな』と感じる場面がいくつかあるので、そのあたりはまだまだかなと思っています」

 チームとしては、4月には勝ちが遠のいた時期もあった。2019年以来の4連敗。苦しんだ期間を、東はこう振り返る。

 「相手に圧倒されて負けるというよりも、自分たちのミスから負ける試合が続いてしまいました。僕自身、その時はWBで起用されていたのですが、プレーの調子も良くはなかったので、すごく不甲斐ないという思いがありました。何かを変えなければいけないと感じていました」

 模索を続けるなか、今シーズンの転機が訪れる。主にボランチとして出場していた田中聡が、筋肉系のトラブルで離脱したのだ。5月中旬、東は川辺駿とのダブルボランチで起用されるようになる。チームはそこから上昇気流に乗り、5連勝で5月を駆け抜けた。

 「自分がボランチをやり始めたのもその頃ですが、これに関しては、運もあったのかなと思います。練習のなかの試合でも残り少ない時間で逆転勝利した試合がいくつかありましたし、そこも含めて、ですね」

 東自身は『運』もあったというが、川辺とのコンビがスキッベ監督から大きな信頼を置かれていたことは間違いないだろう。

(第2回に続く)