1993年の創刊以来、カープ、サンフレッチェを中心に「広島のアスリートたちの今」を伝えてきた『広島アスリートマガジン』は、2025年12月をもって休刊いたします。32年間の歴史を改めて振り返るべく、バックナンバーの中から、編集部が選ぶ“今、改めて読みたい”記事をセレクト。時代を超えて響く言葉や視点をお届けします。
第1回目の特集は、黒田博樹のインタビューセレクション。
広島とニューヨーク、ふたつの街に愛された男、黒田博樹。揺るぎない信念と覚悟を胸に、日米で活躍したその足跡は、今なお多くのアスリート、ファンの心に残り続けている。過去、広島アスリートマガジンに掲載された独占インタビューを再構成し、黒田博樹さんの言葉に込められた思い、生き様を改めて紐解いていく。
2016年、プロ20年目で現役ラストシーズンに臨んだ黒田。8月に行った弊誌現役最後のインタビューでは、“満身創痍の状態を受け入れながら投げ続ける”という、自身の葛藤が伝わってきた。
◆日米通算200勝を達成。楽なマウンドはなかった
— 日米通算200勝という大記録を達成されましたが、時間が経った現在、この記録を実感されることはありますか?
黒田 現時点であまり実感はないですし、ゆっくり振り返る時間はありません。200勝という節目の勝ち星を手にしましたが、〝また次の登板〟ということで大変なので余裕がないですね(苦笑)。ただ、たくさんお花をいただきましたし、そういう部分では少し実感できました。達成した次の日からは〝次の登板に向けて〟という気持ちだけでした。
— セレモニーでは新井貴浩選手の2000安打達成のときのように、ユニークなTシャツでチームメートが祝っていました。
黒田 Tシャツのことは全く知らなかったですし、僕の知らないところで話が進んでいたみたいですね。僕がインタビューを受けている最中にみんないなくなっていたので、ちょっと驚きました(笑)。
— これまで数々の記録を達成されていますが、今回の日米通算200勝という節目の記録は、黒田投手にとってどんな位置づけの記録なのでしょうか?
黒田 それも含めてシーズンが終わってみなければ、なかなか頭に浮かばないですね。そのなかで「本当に200回も勝てたのかな」という気持ちと、「楽なマウンドは一度もなかった」というのが自分の正直な気持ちです。その苦しいマウンドをずっと積み重ねて200回も勝てたのだと思います。決して楽に勝てた試合は1試合もなかったと思うので、驚きの方が強いですね。
— 黒田投手自身はどのような気持ちで、シーズンに臨まれたのでしょうか?
黒田 僕自身は変わることはありません。ただ、マエケン(前田健太)がいなくなるということは、〝絶対的エースがいなくなった〟いうことなので、そういう意味では逆にその危機感からチーム、投手陣が良い意味で一つになれたと思います。今まではチームとしてマエケンが残してきた実績に頼ってきた部分は多少なりともあったと思います。
— 黒田投手の投球について伺いたいのですが、今季のご自身の投球については、どのように自己評価されますか?
黒田 当然悔しい気持ちがいっぱいですし、歯痒い気持ちもいっぱいです。そんななか、自身の状態を受け入れないといけないという気持ちもあるなかで、日々葛藤しながら毎日過ごしています。
— 4月2日の巨人戦(マツダスタジアム)では日本復帰後初の完封勝利をマークされました。完封されたことに関してはどのような思いを持たれていますか?
黒田 『エース』と呼ばれた時代もありましたし、若い頃はいつも完封したいという気持ちでした。ですが、昨年日本に帰ってきて、以前よりも投手の分業制が進んでいると感じました。これはカープに限らず、完投する投手が減ってきているという現状に、寂しい部分がありますし、仕方ないという気持ちもあります。ただ、若い投手も先発をするなら、〝完投をするんだという強い気持ち〟だけは常に持っていてほしいです。そういう気持ちがあれば、練習に対する取り組み方など、いろんなことに対する気持ちが変わってくると思っています。