◆チーム、選手、ファンが同じ方向を向けていた

ー 黒田選手についてはどうでしょうか。

「黒田選手はとても利口な投手です。私は投手陣のトータルの四死球数の減少と並行して二遊間の固定化を2大テーマに掲げていました。その過程で東出・梵というコンビの二遊間はもちろん、一、二番としても機能し始めた。そんな状況を踏まえて黒田君の方からチームに合わせることを考えたのでしょう。だから奪三振の数が減った替わりに、内野ゴロやダブルプレーで切り抜ける回数が多くなった。それは私が彼に何かをしてみなさいと言ったからではありません。さっきあなたが言った大きな変化は私はまだ分からないのですが、恐らくベストシーズンだったでしょう。それは彼のやり方に大きな理由があると思います。もちろん最後の方で故障してしまって、それで今年のやり方が間違っているのではないか、と言う人もいるでしょう。でも私はそれは絶対に関係ないと思います。今年の黒田選手は球数に大変、気を使い中4日、5日のルーティーンもきっちりしていました。昨年までは逆に苦しい状況で投げる機会が多かったと推察しています。それが今年はだいぶん、減ったのではないでしょうか。疲れきったところで替えるのでは故障の可能性も高くなるし、数字も悪くなる。今年の彼の防御率を見ればそれは一目瞭然だと思いますね」

 それにさきほどあなたが言われた『ALL‐IN』について、私もまったくその通りだと思います。去年より成績も順位もいい訳ですが、そうは言っても決して誉められた成績ではありませんよね。でもそういう状況をファンのみなさんが非常に理解してくれている感じがするのです。とても雰囲気も明るい。ファンの方たちもちゃんと『ALL‐IN』のコンセプトが分かっているのでしょう。外国人監督がこのチームにやってきてひとつ変化があったからといってポンと優勝チームが生まれる訳ではありません。これは非常に長い時間がかかる道のりになります。その過程についてコーチ、選手だけでなくメディアやファンのみなさんが分かってくれていると今年の日本ハムのような結果が生まれるのです。私はぜひ、そうなりたいし、そうなると信じているのです。

 ボビー・バレンタイン監督もヒルマン監督も来日した時、日本の文化やフロント、ファンに対しても私が抱えている不安とまったく一緒のものを抱いていたと思います。もちろん施設、球団関係の様々な状況も違うのですが、私としては他の外国人監督と違うところもあって当然で、私の信じていることをやっていこうと思います。ただ不安を抱えているからといってお互いアドバイスをし合うことはありません。3人とも個性が違う、それぞれ自信も持っていますから。

 自信と言えば昨年、ロッテが優勝した時もそう、今年の日本ハムもそう。選手たちはいい結果が起きるという自信を持っていましたね。ここで大切なことはその自信というのは『願い』ではないということです。『今日はこういうふうに勝って欲しい』とか『今日のこのピッチャーに抑えて欲しい』。それはみな思うことなのですが『今日は当然、抑えるだろう。みな普通に打つだろう』と日本ハムの選手はみなそう思っていたはずです」

(後編へ続く)