J1で優勝争いを繰り広げるサンフレッチェ広島。その一方で、かつての選手がJ2の舞台で、それぞれの「今西イズム」をぶつけ合い、J1への切符を掴もうと奮闘している。

サンフレッチェ広島の基礎を築いた今西和男氏

 2025年のサッカーJ2リーグ。20チームが昇格・残留を懸けて激しく競り合う中で、元サンフレッチェ広島の選手たちが監督として挑戦を続けている。2シーズン目となるベガルタ仙台の森山佳郎、6月からV・ファーレン長崎を率いる高木琢也、モンテディオ山形の横内昭展、そして今季途中まで大分トリニータを率いた片野坂知宏だ。

 この4人はいずれも現役時代にサンフレッチェ広島でプレーした経験があるだけでなく、指導者としての出発点に共通する背景があり、この源流をたどるとクラブ創設期からチームを率いた今西和男元総監督の存在に行き着く。

「サッカー選手である前に、良き社会人であれ」

 今西氏が選手たちに説き続けたのは、単にサッカーの技術だけではない。常に自問自答し、ピッチ内外で最高のパフォーマンスを求める姿勢は、選手にプロとしての自覚、人間性、思考する力を育んだ。目の前の成功よりも、選手の変化と成長を重要視したスタイルは多くの教え子に受け継がれ、彼らの指導者としての根幹を形成した。

 『闘将』として知られた森山佳郎監督は、広島ユースで数々の才能を育てた手腕を存分に発揮し、仙台では若手とベテランを融合させたチームづくりを進めている。『アジアの大砲』と呼ばれた高木琢也監督は、長崎で堅守速攻をベースにチームをまとめ上げ、上位争いを繰り広げており、その背景には論理的な戦術と選手との対話がある。森保ジャパンの右腕として活躍した横内昭展監督は、派手さはないが緻密な戦術家として組織的な守備と分析に基づいたアプローチにより、選手の個性を生かしたスタイルで、チームを着実に強化している。そして、独特のポゼッションサッカーで大分をJ1昇格に導いた片野坂知宏元監督。解任という苦渋をなめたが、カタノサッカーと呼ばれるスタイルは多くのサッカーファンと指導者を魅了した。

 今西氏が蒔いた種は、それぞれの個性と結びつき、J2の舞台を熱くしている。彼らのチームは、ただ勝利を追求するだけでなく、観客を魅了するサッカー、そして選手を成長させる哲学を持っている。これは、広島と今西氏の歴史と人材育成の成果を示す一面ともいえ、日本のサッカー界に、そして何よりもサンフレッチェ広島の歴史に、新たな1ページを刻んでいる。残り10節、彼らの今後の動向に、引き続き注目していきたい。

今西和男著『聞く、伝える、考える。〜私がサッカーから学び 人を育てる上で貫いたこと〜』(好評発売中)

 Jリーグ黎明期から「育成型クラブ」として知られるサンフレッチェ広島。かつて、サンフレッチェ広島発足前後に総監督(ゼネラルマネージャー)として、クラブの基礎を築き上げたのが今西氏。本書は、サンフレッチェ広島の基礎を創り上げた今西氏の「哲学」と「育成論」を言語化。自身がサッカーを通じて経験してきた「人材育成哲学のルーツと伝えてきたこと」が綴られています。

 また、本書の第二部、第三部では、「今西氏の教え・影響を受けた人物の証言」を多数収録。森保一(日本代表監督)、横内昭展(モンテディオ山形監督)、森山佳郎(ベガルタ監督)、引退後もサンフレッチェ広島を支える森﨑和幸・浩司兄弟・駒野友一による特別座談会、さらに、サンフレッチェ広島の黎明期に活躍した風間八宏、元日本代表監督・ハンス・オフトなど・・・今西氏の教えと哲学の背景についても理解できる内容で構成されています。

 これからのサッカー界・スポーツ界を支えていく指導者、未来のアスリートを育てる保護者の皆様、さらにサッカーファン、ビジネスパーソンにとっても必見の一冊です。

【書籍概要】
■タイトル:「聞く、伝える、考える。〜私がサッカーから学び 人を育てる上で貫いたこと〜」
■著者:今西和男(いまにし・かずお)
■定価:本体2000円+税
■ページ数:240ページ
■発行:アスリートマガジン