2005年にスタートした『育成選手ドラフト』。カープはこれまで37選手を育成ドラフトで獲得している。菊池涼介、矢野雅哉など数々の選手を発掘してきた松本有史スカウトは、13人の育成選手を担当してきた。百戦錬磨の松本スカウトが、大盛穂、二俣翔一の獲得秘話、そして育成選手たちへの思いを明かす。(全2回/第2回)

2019年新入団選手発表会見。大盛穂は唯一の育成指名選手だった。

◆厳しい立場ではあるが、特徴的な能力を持っているからこそ指名されている

 大盛穂(2018年育成ドラフト1位)を指名したドラフトも印象に残っています。

 彼は静岡産業大という、球界では無名校でプレーしていた選手でした。大学当時から外野守備においての打球反応が良くて球際に強い、走塁に関してはスタートが良く盗塁もできる選手であると見ていました。ドラフトは毎年、その時点でのチームの補強ポイント、支配下登録選手数、他球団がマークしているかどうか……など、さまざまな要素が絡み合って、ドラフト当日を迎えています。そういった状況の中で、2018年のドラフトは小園海斗(1位)、島内颯太郎(2位)など、7選手を支配下で指名しました。

 当時、ドラフトを迎えるまでに大盛に対して他球団のマークが1つもありませんでした。私としては「能力的には支配下指名でもいける選手だ……」と感じていたので、育成ドラフトとなった時点で猛プッシュし、指名することができました。彼は1年目オフに支配下登録となりましたが「能力的にはもっと早く支配下になれたのでは」と思ったことを覚えています。

 その意味では二俣翔一(2020年育成ドラフト1位)も、大盛と似たような評価の選手でした。

 高校時代から能力が高く、中でも「肩が強い選手」と評価していました。彼は高校時代捕手でしたが、当時「捕手は育成枠で」というチーム事情がありました。二俣には他球団からの調査も入っていたので「他チームに指名されるかもしれない……」と思っていたところ、育成ドラフト時点でまだ指名されていなかったので、「育成1位で指名をしてください」とプッシュして指名に至った選手です。2年目オフに支配下になり、今年は開幕スタメンをつかみました。まだまだ一軍で結果を残すのに苦戦しているようですので、なんとかもう一皮剥けて、レギュラーを奪ってほしいです。

 現在も多くの育成選手が支配下を目指して奮闘していますが、彼らには、常日頃から支配下選手以上に「一軍で活躍するんだ」という強い意識を持ってほしいです。そしてその気持ちを大事にしながら日々練習に取り組んでもらいたいです。

 たとえば、ソフトバンクであれば、三軍、四軍が設置されていて、数多くの育成選手が試合経験を積むことができます。しかしカープの場合は、二軍公式戦に出なければ試合経験を積むこと、結果でアピールすることができません。ですので、カープの育成選手はまず、二軍でポジションを奪わなければいけません。それだけ厳しい立場に置かれているわけですが、皆、特徴的な能力を持っているからこそ指名されているので、とにかく自分の強みを活かした上で頑張ってほしいです。

 支配下登録を勝ち取った大盛にしても二俣にしても、やはり野球に対しての情熱、ガツガツ感を持っている選手です。担当した選手は全員気になりますし、親目線のような部分があります。要所で声をかけながら、彼らが一軍で活躍することを願って見守っていきたいです。

■松本有史(まつもと・ともふみ)
1977年5月1日生、広島県出身
崇徳高-亜細亜大-広島(1999年ドラフト7位-2005年引退)
現役時代は長打力が魅力の大型内野手として活躍。2005年限りで現役引退。翌2006年からスカウトに転身し、主に東海地区、母校の亜細亜大を担当している。これまでに堂林翔太、菊池涼介、九里亜蓮(現オリックス)、西川龍馬(現オリックス)、床田寛樹、矢野雅哉など、近年チームの主軸として活躍してきた選手の獲得に尽力。育成ドラフトではこれまで13選手を担当し、大盛穂、二俣翔一らを発掘した。