この初ホームランにはもう一つエピソードがあります。試合が行われた静岡県浜松市は、僕の駒澤大学時代の恩師である太田誠監督の故郷だったんです。試合後にはすぐに太田監督に「初めてスタメンで試合に出られて、ホームランが打てました。ありがとうございます!」と電話したことも忘れられない思い出です。

 そんな思い出が詰まった初ホームランの球はファンの方から返していただけたので、両親にプレゼントしました。長く現役でプレーさせていただく中で節目の記録がいくつかありますが、基本的に僕は無頓着な性格なので、自分の記録などはあまり覚えていないっていうのが正直なところですが、プロ初ホームランの球だけは忘れられません。

 当時の僕は振る力だけはあって、当たれば飛ぶという、そんな打者でした。でもホームランを打てたことによって『プロの一軍でホームランを打つのは、こんなに気持ちが良いものなのか』と感じることができました。打った後に、ダイヤモンドを走っていると、もう一回味わいたいと思うものです。時が止まるというか、ホームランを打った直後は、自分しかプレーの中で動いていない訳です。みんなが自分を見ているし、この気持ち良さを実際に自分が経験したことで、もっともっとホームランを打ちたいと思うようになりました。

 2年目以降、プロでホームランの数を重ねていく度に「これは行ったな」という感覚がだんだんと分かるようになってきました。それは球場によって違う感覚があるんですが、たまに「これは行ったな!」と思ってゆったり動いていたら……フェンス直撃だったということもありましたけどね(苦笑)。それで、「お前打ったら走らんかい!」と怒られたこともあります(笑)。

 結果的に現役時代には319本のホームランを打つことができましたが、この初ホームランは自分の中ではトップクラスで印象に残っていますね。僕が引退してからそのように思うのも、『僕のプロ野球人生はここからスタートした』という感覚があるからでしょうね。