試合があった浜松球場ですが、地方球場特有の狭さがあって、ベンチからバッターボックスまでの距離がすごく近いんです。だから自分の背中越しにベンチがあるような感覚でしたし、ベンチからの声も丸聞こえのような状況でした。相手先発は野口茂樹さん。このシーズンに中日は優勝していますが、野口さんは19勝でセ・リーグMVPに輝くなどバリバリのエースでした。

 そして初ホームランが飛び出たのが1点を返し、2対3で迎えた4回表、無死一、三塁と逆転のチャンスという場面でした。ガチガチで迎えたこの打席、僕は初球の甘めに来たストライクを見送ってしまったんです。そしたらベンチの大下さんから……「おどりゃ〜! 喰らわすぞ!」とすごい声が聞こえてきたんです(苦笑)。それで「やばい……」と思っていたところ、2球目のワンバンの完全なボール球を空振りしてしまいました。この時点での僕の心境は、初スタメン緊張と、ベンチからの声での「やばい!」という気持ちだけ。完璧に僕は相手投手である野口さんではなく、正直言うと完全に味方であるカープベンチと勝負していた感じでしたね(苦笑)。

 そして3球目のボール球を見逃し、4球目でした。スライダーが真ん中に入ってきて、目をつむって思い切りフルスイングしました。すると打球は左中間スタンドに飛び込むホームランになった訳です。スタンドに打球が入った瞬間は、とりあえず頭の中が真っ白でした。だから僕は「本当にホームランになったの?」という感じでゆっくり走っていたんですが、三塁を回ったあたりから、これまたカープベンチから「早よ走らんかい! ボケ!」と大下さんの怒鳴り声が聞こえてきて、またまた「やばい!」と思って、ここから加速してホームインしました。ベンチではハイタッチで迎えられましたが、「早よ走らんかい!」と、また怒られてました(笑)。さまざまな思いがあっただけに、すごく印象に残る一発になりました。