チーム打率、打点でリーグ2位の成績を残した2020年のカープ野手陣。だが投打の歯車が噛み合わず、2年連続でBクラスに沈むことになってしまった。他球団に見劣りしない数字を残しながら、なぜ勝ち切ることができなかったのか。OBの山崎隆造氏が、打者目線で今季のカープを総括する。

若手選手の中で頭ひとつ抜けた活躍を見せた大盛穂選手。

◆個々の成績よりも“チーム打撃”の意識が薄れている

 まず今季の打線について、チーム打率(.262)、打点(501点)はともにリーグ2位の成績を残すなど数字を見れば悪くありません。では、なぜそれがチームの勝利につながらなかったのか、それを来季開幕までに考えて解消していかなければなりません。

 3連覇をしていたカープと現在のカープの違いを挙げるならば、もちろん個々の成績の低下というものもありますが、それ以上に大きいのが“チーム打撃”の意識が薄れているという点が挙げられるでしょう。

 数字では表しにくい部分ですし、“言うは易し”ということも私なりに理解はしていますが、やはりシーズン通して物足りない部分があったことは否めません。今季のカープはどうも一人ひとりが孤立して攻撃していたというか、チーム全体で得点を奪ってやろうという気概が欠けていたように感じました。

 たとえばチャンスの場面で打席が回ってきたときは、プロ野球選手といえども緊張するものです。特に一番最初に打席に向かう打者は、なかなか平常心ではいられません。

 そうした時に『後ろにつなげばなんとかしてくれる』という信頼感を持って打席に向かうのと、『俺がなんとかしなければ』というような自らにプレッシャーを与える気持ちで打席に立つのでは、結果が大きく変わってくるものです。周囲の選手を信頼していれば、自分も頼られたときに何とかしてやろう、と思うものですし、その関係の持続がチームとしての連帯感、つまり佐々岡真司監督が就任時に語っていた“一体感”が生まれます。

 例ではチャンスの場面を挙げましたが、これは打者と投手の関係でも同じです。野球はチームスポーツですから、野手と投手が一体感を持って戦っていかなければ、リーグ戦を制することは不可能に近いでしょう。

◆1番から5番までは、もう少し打線を固定したいところ

 今季のカープは故障者に悩まされたこともあり、最後まで打線を固定し切れませんでした。6番以降はある程度日替わりでも良いとしても、打線の中で得点を期待されている役割、つまり1番から5番まではもう少し固定したいところです。そうすることで先ほど述べたような、前後の打者への信頼感や連帯感、役割分担が生まれていくのではないかと感じています。

 ただし、3連覇中に活躍したメンバーに当時と同じような活躍を期待するのも、今後は禁物になってくるのかもしれません。選手たちは当然1年ずつ年を重ねていくわけですし、たとえば松山竜平などは、当時はいわゆる“中堅どころ”と考えられていましたが、現在は“ベテラン”と呼ばれる存在になってきました。主力選手の起用については今季同様、来季も柔軟に対応していく方が、チームとしての力をより発揮できるようになるかもしれません。

 一方で若手選手たちが続々と台頭してきたのも今季の特徴の一つです。羽月隆太郎、宇草孔基、正隨優弥、林晃汰など、それぞれの選手が潜在能力の一端を見せてくれただけに、来季どんな活躍を見せてくれるか非常に楽しみな部分はあります。

 中でも頭ひとつ抜けた活躍を見せたのが、外野手の大盛穂です。脚力もありますし、守備も経験を積んでいけばまだまだ伸びしろがある選手だと見ています。

 ただ試合出場を続けたことで、落ちる球への対応に苦しめられ三振が多いという弱点も露呈しました。若手選手であると言っても、野間峻祥という同タイプの選手がいるだけに、さらなるレベルアップを期待したいところです。