佐々岡カープ元年、主力選手が故障などで苦しむ姿が目立つ中で、多くの若手選手が躍動した。ここでは「初」をキーワードに2020年シーズンの佐々岡カープで生まれた記録を振り返っていく。

 今回は、育成出身の高卒3年目・藤井黎來が一軍初登板を果たした10月8日の阪神戦(マツダスタジアム)を振り返る。

10月8日の阪神戦。9月26日に支配下登録された藤井黎來選手がプロ初登板。1イニングを無失点に抑え一軍デビューを飾った。

◆念願の支配下登録。一軍デビュー戦は1回無失点の好スタート

 秋田県・大曲工高出身。育成選手として3年目を迎えた藤井黎來は、誰よりも強い決意を持って、2020年シーズンに臨んだ。

「今年が本当に最後のシーズンだという危機感を持って毎日投げています」

 右腕が誇る最大の武器は、ストレートとフォーク。持ち味であるフォークで目指したのは、ストライクも取れて空振りも奪える、どんな場面でも使える頼れる変化球。春季キャンプでは、主力打者から三振を奪うなど、一軍の舞台でも十分に通用する球であることを首脳陣にアピールした。

 3月25日のヤクルト戦では、練習試合ながら一軍クラスの主力相手に1回を無失点に抑えると、開幕したウエスタン・リーグでも安定したピッチングを披露し、念願の支配下登録に向けて猛烈アピールを続けた。藤井の鍛錬の日々が報われたのは9月26日。この日、支配下登録されると、即一軍昇格を果たした。

「育成契約の選手にとっては3年がひとつの区切りですし、そこで支配下登録をしていただけたのは少し安心できました」

 そして迎えた10月8日の阪神戦。この日、藤井が、待ち望んでいた一軍のマウンドに立った。

 場面は7回。先頭打者にヒットを許すも、次の小幡竜平はストレートで見逃し三振に。8球のうち7球ストレートの、力で押す投球で封じ込めた。2死にしたあと、近本光司もストレートで押す投球でセカンドゴロに打ち取り3アウト。9点ビハインドの展開での登板となったが、しっかりと持ち味を発揮し、無失点デビューを果たした。

「歓声がすごかったので、めちゃくちゃ緊張しました。でも抑えることができてよかったです。直球でファールが取れましたし、フォークでも空振りを取ることもできました。自分の球が、一軍で少しは通用したというのは収穫です」

 その後3試合に登板し、10月22日に登録抹消となったが、この約2週間の一軍での時間は、右腕にとって数字以上に大きな経験となった。

「やっぱり今のままではダメで、もっと頑張らなければいけないんだと、そういう気持ちが強くなりました。来年は新しい選手が入ってきますし、危機感はあります。ただ、一番は“負けてられない”という思いです。モチベーションは高いですね」

 育成契約は原則として3年契約。崖っぷちに追い込まれ迎えた一年だったが、持ち味であるストレートとフォークを磨き、念願の一軍デビュー。藤井にとっては充実した一年だったに違いない。来季はプロ4年目。支配下登録選手として迎える新しいシーズン、今季の勢いそのままに突き進んでいく。