2020年シーズンを持って現役引退を決断した佐藤寿人(ジェフユナイテッド千葉)。J1歴代2位のゴール数を記録した“ストライカー”は、かつてサンフレッチェ広島に12シーズン在籍した。ここでは『広島アスリートマガジン』誌上に掲載された数々のインタビューから厳選し、佐藤寿人のサッカー人生を本人の言葉と共に振り返っていく。 

 2008年からのJ2降格に直面しながら、いち早くチームへの残留を表明した佐藤寿人。1年での再昇格を目指し、2008年シーズンは開幕当初からゴールを量産した。結果、J2得点王に輝く活躍で、公約通りにわずか1年でJ1昇格を達成。本誌2008年12月号のインタビューではJ2チームの選手ながら日本代表にも選出された当時を語っていた。

2008年は1トップで28得点を挙げて、J2得点王に輝いた佐藤寿人選手。

◆サンフレッチェはJ2でやるようなクラブじゃない

― 2008年シーズンも残すところあとわずかになりましたが、昨年12月8日にJ2に降格して以降の1年を、改めて振り返って頂けますか。

「降格が決まった瞬間から、悔しさを味わった他の選手と一緒に『サンフレッチェはJ2でやるようなクラブじゃないんだ』ということを証明したいと思ってやってきました。だから昇格が決まったときは、本当にホッとしましたね。ところどころで負けたり、うまくいかなかったりしたゲームもあったけど、そこから学んで成長しながら勝ち点を積み重ねることができました」

― ペトロヴィッチ監督は『この1年で選手は精神的な部分で強くなった』と仰っていましたが、そのあたりについてはどのように感じていますか?

「今年は先制されても慌てず、お互いを信じて90分間戦うことができたと思います。それが負け試合の数の少なさや、連敗がないところにつながっているんじゃないかなと。去年はそれぞれの選手が100%の力を発揮していても、チームとしてはうまく歯車がかみ合っていませんでしたからね。個の力でどうにかしようという思いが強くなりすぎて、結果的にお互いを助け合うことができていなかったんです。でも今年は、いろんな部分でうまくサポートし合うことができました」

― 9月中にJ2優勝を決めた後も勝ち続け、第42節の段階で90得点、31失点とJ2では断トツの成績を残しています。チームが目指している『人もボールも動くサッカー』への手応えも感じていると思いますが。

「相手がいろんな対策をとってきても結果を出したという部分では悪くないと思います。ただ大事になってくるのは、これをJ1でも同じようにやれるかということです。今年のJ2は得点ランキングを見ても分かるように、個の能力が高い外国人選手はいませんでした。でもJ1にはジュニーニョ(川崎)やマルキーニョス(鹿島)のような選手がいる。彼らは一瞬の隙をついてくるので、J2でできなかった部分をJ1でしっかりやれるようにしないといけません。ただ、自分たちのサッカーをやっていて楽しいなということはすごく感じているんです。プレーをしている選手がワクワクしながら、見ている人たちを興奮させるようなサッカーで結果を出していく。それは難しいことだけど、成し遂げていけばもっと面白いチームになれるはずです」

― 寿人選手はこの1年でのチームの成長を、どのように感じていますか?

「若い選手も含めて、チーム全体が成長したんじゃないかと思います。アオ(青山敏弘)や(髙萩)洋次郎は、本当に大きく成長したと思うし、(柏木)陽介も悔しい思いをしたことによって、いろんなことを学んだと思うんです。マキ(槙野智章)にしても昨年の今頃から徐々にレギュラーで出始めたくらいだけど、今年はフルで活躍して後ろを引っ張ってくれました。ただ、よりJ1の方が厳しくなるはずなので、もっとレベルアップしないといけません。若さだけではどうしても戦い抜けない部分もあるだろうし、そういうときに経験のある選手がうまくチームをコントロールすることが大事だと思っています」

― 寿人選手は第42節の段階で24得点を挙げており、チームのJ1復帰に大きく貢献した1人だと思いますが、ご自身のプレーについてはいかがですか?

「初めて1トップで、ある程度シーズンを通して戦って、僕自身もFWとしていろいろなことを学びました。FWなのでゴールにはこだわっていきたいけど、今までのプレースタイルだけでは、いずれ行き詰まったかもしれませんからね。もっといろんなことができるんだと監督に教えてもらったので、これからもゴールだけではなく、他の部分でもよりチームに貢献していきたいと思っています」

― 開幕前には『20得点』あるいは『得点王』を目指すと仰っていましたが、シーズン途中からは特に得点王に関して「こだわらない」という話もありました。そのあたりは、実際に戦っていく中で心境の変化があったのでしょうか?

「当然、個人で『20』という数字は超えないとダメだとは感じていました。ただ、いろんな形で得点王のことを言われるようになっても、自分の中ではJ2の得点王には何も価値がないと思っていたんです。J1の得点王であればチームメートの評価にもつながるけど、J2は表彰されるわけでもない。何年後かにJ2の得点王は誰かと訊かれても、ほとんど誰も覚えていませんからね。どんなに連勝しても、2位と3位と勝ち点が離れても、心のどこかで『もし連敗したら』という怖さが多少あったので、徐々に個人の記録はどうでもいいと思うようになりました。そういう意味では、チームの1人としてしっかりプレーできたと思っています。アシストも僕にしては多い方だし、うまく得点に絡むことができました」