2003年3月の創刊号以来『広島アスリートマガジン』では、カープの選手やOBなどさまざまなインタビューを収録してきた。この企画では、これまでの誌面を振り返り、印象的な言葉をピックアップ。今回は、広島から海を渡ったエース、そしてその魂を受け継いだ現在のエースの2人が紡いだ言葉を紹介する。

“マエケン”の相性でファンから愛された前田健太投手。カープでの9年間で97勝を挙げチームを支えた。現在は、大リーガーとして活躍している。

◆背番号18の重圧を力に変えて躍動した“マエケン”

【前田健太(2007年-)】
エースというのは、チームを勝たせないといけない存在
(広島アスリートマガジン 2012年8月号)

 佐々岡真司、黒田博樹。チームを牽引した絶対的エースの系譜を受け継いだのが前田健太だ。

 名門PL学園高からカープに入団した前田に転機が訪れたのはプロ2年目の2008年。佐々岡が背負ってきたエースナンバー・背番号18を託されることになった。

「自覚を持ってやらないとダメだと思うし、この番号をもらったことは、きっと良い方向にいくと思います」。

 負けん気が強く、底抜けの明るさを持つ若武者は、背番号変更を重圧に感じることなく、むしろ意気に感じ、マウンドで躍動した。背番号を変えた2008年、後半戦から先発ローテに定着すると9勝を挙げ、CS進出争いに大きく貢献。旧広島市民球場最後の公式戦でプロ初本塁打を放ち、旧市民球場最後の勝利投手になるなど、印象的な活躍を残したことで、背番号18とともに“マエケン”の名は一気に広まった。

 翌2009年は、マツダスタジアムでのカープ初勝利試合で完封勝利を飾ると、初の規定投球回超えとなる193イニングを記録。一年間先発ローテを守り抜き、プロ3年目ではやくもカープ先発陣の中心的存在へと成長した。

 そして迎えた2010年。この年は前田にとって一つのターニングポイントとなった。自身初の開幕投手を託されると、前半戦だけで2桁勝利を記録。最終的に15勝8敗、防御率2.21、奪三振174で史上最年少、球団史上初の投手三冠を獲得し、沢村賞にも輝いた。

 2012年にはノーヒットノーランを達成すると、自己最高の防御率1.53で2年ぶりに最優秀防御率のタイトルを獲得し、3年連続となる200イニングをクリア。以降もチームの顔、カープのエースとして君臨し、数々のタイトルを獲得。メディア対応をはじめとしたファンサービスにも積極的に取り組み、カープ女子をはじめとした“カープブーム”の火付け役にもなった。

「自覚は持っていますけど、胸を張って自分の口から『エース』とはまだ言えません。エースというのは、チームを勝たせないといけない立場ですから。エースという言葉は、チームが優勝したときに、自分が中心となってできていれば、胸を張って言いたいなと思っています」

 残念ながら前田が在籍した間に、悲願のリーグ優勝は叶わなかった。しかし、チームが低迷するなか孤軍奮闘を続けた背番号18の姿は、ファンの脳裏に確かに刻まれている。