スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

 セ・リーグは1990年にレギュレーションが<延長15回まで、時間制限なし>に変更されてから、引き分けが少なくなる。2001年に<延長12回まで、時間制限なし>(セ・パ共通)に変わったが、引き分けが劇的に増えることはなかった。

 しかし今季は新型コロナウイルスの影響により、<9回打ち切り>となる。長いプロ野球の歴史の中で、延長戦がないのは初めてのことだ。

 優勝を争うチームにとって、引き分けは勝ちに等しい。これまでの最多引き分けは82年に中日が記録した19。この年、中日は64勝47敗19分け。2位・巨人は66勝50敗14分け。勝利数は巨人か2つ上回ったものの、中日が勝率で8厘上回り(中日5割7分7厘、巨人5割6分9厘)リーグ優勝を果たした。

 引き分けが多かった70年代から80年代にかけて、カープは5回(75、79、80、84、86)リーグ優勝を果たしている。そのうちの4回(75、80、84、86)でリーグ最多引き分けを記録しているのだ。

 圧巻は“神様、仏様、北別府様”の86年だろう。優勝したカープの戦績は73勝46敗11分け。2位・巨人は75勝48敗7分け。勝利数で2つ下回りながら、負け数が2つ少なく、引き分けは4つも多かった。驚くことに、それにより勝率で3厘(広島6割1分3厘、巨人6割1分)巨人を上回ったのだ。

 このようにカープには「引き分けで勝ってきた」歴史がある。今季は「リーグ最多の引き分け」を狙ってみたらどうか。勝つことは大事だが、負けないことはもっと大事だ。案外、それが優勝への近道かもしれない。

(広島アスリートアプリにて2021年3月29日掲載)

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二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。