◆黒田、新井の戦う姿に刺激

─6月5日の楽天戦で、決勝タイムリー二塁打を放った場面も印象的でした。

「あの打席、僕は打つ気しかありませんでしたし、打てるとしか思っていませんでした。すごく冷静に打席に立っていて、頭の中も真っさらで球場の応援も聞こえませんでした。投手と自分だけしか見えていませんでしたね」

─緊迫した場面だっただけに、より集中した打席だったのですね。 「あの試合は黒田(博樹)さんが何度もピンチを抑えていて、新井(貴浩)さんもファインプレーをしたり、ずっと『黒田さんと新井さんに助けられている』と個人的に感じていました。僕が試合に出ていても、出ていないときでも、あのお二人のプレーから気持ちを感じるものがあるんです」

─両ベテランから受けている刺激も大きいのですね。

「一緒にプレーさせてもらっているというのは、僕の中ですごく大きいですね。新井さんも故障がありながらですし、黒田さんも万全の体調ではない中で、納得いく結果ではないと思います。それでも何とか抑えてやろうとか、何とか塁に出てやろうというものを感じるんです。そういう姿を見て、僕自身結果を求めていたんだなと思いました。そう思うようになってから、気持ち的にもっと開き直れるようになりましたね」

─同じ野手である新井選手から、直接アドバイスを受けることはあるのですか?

「会話をさせていただくことは結構ありますし、技術論にしても僕から聞きにいくことがあります。最初は緊張しましたけど、最近では積極的に聞きにいっていますし、新井さんが聞きにいきやすい状態をつくってくれています。僕にとってはすごくありがたいことだと思っています。経験がある方ですし、これからもいろいろと聞いていきたいですし、学んでいきたいと思っています」

─6月23日の阪神戦では、プロ初の3番スタメンでした。打順を意識することはありましたか?

「全く意識することはなくて、試合に出られるうれしさの方がありました。ただ4試合ぶりだったので、力んでしまいました(苦笑)。やはり試合の間隔が空いて、その中で結果を出さなければいけないので、どうしても自然と力んでしまいました」

─毎日試合に出られない状況で、メンタル的に、また練習などで工夫していることはあるのですか?

「たまに試合に出て力んでしまうということを分かっているので、練習から力もうと思ってわざと力んでバットを振っています。そうすることで試合に出たときに、打撃練習のときと同じ感覚で振れると思ったんです」

─開幕から一軍に定着している状態ですが、二軍で試合に出続けるよりも成長しているという感覚はありますか?

「やっぱり一軍と二軍の緊張感は全く違います。ただ、その中で一軍にいた方が良いのか、二軍で試合に出続ける方が良いのかは分からないですね。結果が出ないときは自分でもヤバいなと感じていましたが、それでも監督に我慢して使ってもらっているので結果を出したいですね」

─一軍に居続けることで精神的にタフになった部分もあるのですか?

「小さなことを気にしなくなりましたね。ミスを犯してしまったり、ときには野次が飛んできたり、精神的にキツいときもありますが、良い意味で『仕方ない』と思って、思い切ってプレーしなきゃと思っています」

─後半戦に向けて、意気込みを聞かせてください。

「たくさんのファンの方が球場にきていただいているのは、僕たちにもすごく伝わってきますし、負けたときも『頑張れ』と言ってくれる人もいます。なので何とか勝ちたいし、打ちたいと思っています。まだまだチャンスはあるので、黒田さん、新井さんという強い存在もありますが、頼るのではなく、自分のような若い力でも勝っていければと思います」

◆2013年から2020年に行った鈴木誠也のインタビューは、広島アスリートマガジン2020特別増刊号「鈴木誠也 全インタビュー集」で公開中。