試合前には紫と白のコレオグラフィに『今年も共に戦おうぜ、紫の戦士達』という横断幕がスタジアムに踊った。花束贈呈した本日のゲスト、本田望結ちゃんの背丈が全然子どもサイズじゃないことに軽く驚かされる。そしていよいよキックオフ。2020年のリーグ戦スタート−−結果はみなさんご存知のとおりである。開始2分の鹿島のポスト2連発をしのぐと試合は広島ペース。今年の武器である前プレスから前半20分、ドウグラス選手があっけなくゴール。その5分後にはキーパー大迫敬介選手のロングフィード⇒森島司選手の見事なトラップ&サイドチェンジ⇒ドウグラス選手右サイド疾走からのクロス⇒駆け上がった川辺駿選手ニアでスルー⇒レアンドロ選手当てるだけ、という美しすぎるボールの動きで追加点。さらに後半38分には森島司選手が1対1を豪快に決めてフィニッシュ。鹿島がチームづくりの途上であることを考えても、役者が躍動しての3-0は最高以外の何物でもなく、さらに交代で出てきたのが浅野雄也選手、東俊希選手、松本大弥選手という今年のブレイクが期待されるニュースターばかりというのもたまらない。今年のサンフレはマジで強いし、しかも勢いある若手がますます台頭しそう−−と希望に胸を膨らませたサクラサク状態でスタジアムを後にした人も多いのではないだろうか。しかし、それが……。

 その快勝のわずか2日後、新型コロナウイルス感染症の拡散防止のため、まず3月15日までのリーグ3試合、ルヴァン杯2試合の延期が発表される。さらに3月9日、収束の気配が見られないことから再開の延期を決定。現在は新たにリーグ2試合を延期にして、4月3日の再開を目指すとしているが、同じく延期を決定したプロ野球が開幕を4月“中”と見込んでいるように、事態はまったく予断を許さない。スポーツ界では史上初めて春のセンバツ甲子園が中止となり、テレビではガランとした無観客の会場で大相撲春場所が行われるなど、日々前代未聞の状況が繰り広げられている。

 多くのスポーツファンは残念な想いをしているだろうし、その中でもサンフレファンは2-0、3-0という百点満点中120点のスタートダッシュに水を差される格好になっただけに、とりわけ複雑な想いを抱えている人も多いだろう。開幕自体が延期になったプロ野球に対し、Jリーグは1試合やって中断というタイミングの悪さで、いきなり断たれてしまったこの気持ちの盛り上がりをどうしていいか私自身もわからない。

 ただ、非常事態のはずなのに肝心のウイルスは見えず、街は一見普段と変わりなく見える。仕事に向かう途中、フト顔を上げて思い出すのは、あの日エディオンスタジアムで見た空の青である。メインスタンドに座った私は「日陰はまだ寒いなぁ」と思いながら、向かいの澄み切った青空に目を細めていたのだった。

 あの青空の続きはどこへ行ったのか−−空はずっとそこにある。今はただ、平常が戻るのを待つだけの春である。