◆悔しさだけが残ったCS

─6月の3試合連続決勝弾から『神ってる』という言葉が鈴木誠也選手の代名詞となりました。

 「監督が『神ってる』という表現で僕のことを言って全国区にしてくれて、いろんな野球ファンの方に知ってもらえる機会が増えたことは素直にうれしかったです。ただシーズン終盤は何にでも『神ってる』と使われることがあって、他の人も何かあればそう言われていたので、少し戸惑いはありましたし、一歩引いてその言葉を見ている自分もいました。ただ改めて振り返ってみると、昨季の打撃は神がかっていたというか、確かに奇跡だったのかなと思います(苦笑)」

─シーズン終盤は左肩を痛めた中でプレーしていたそうですね。

 「そうですね、痛めたときは正直『終わった』と思いました。8月24日の巨人戦でファウルグラウンドまで打球を追ったときに少し足が絡まってしまって、そのまま打球に飛び込むような体勢になって左肩を亜脱臼してしまいました。とにかく痛くてキツかったですね。腕も上がらない状態でしたが、試合に出たかったですし、他の選手にポジションを譲るのが嫌でした。バットはある程度振ることができたので、できる範囲でやろうと思っていましたし、少しくらいの痛みでは休みたくないという気持ちでプレーしていました。トレーナーさんたちには『鉄人になります』とずっと冗談半分で言っていました(笑)」

─昨季レギュラーシーズンで印象に残る試合はありますか?

 「優勝を決めた9月10日の巨人戦は一番緊張しました。さすがに『今日勝ったら優勝を決められる』という意識もありましたし、球場の雰囲気も独特だったので、打席に入るときに足が震えました。そんな中で2本ホームランを打てたのは自信になりました」

─ 胴上げの瞬間はいかがでしたか?

 「あまり実感がありませんでしたが、僕が1年目のとき(13年)、東京ドームで胴上げを見せつけられていたので、借りを返せた感じはしましたね。東京は僕の地元でもありますし、家族も見にきてくれていました。小さな頃から東京ドームでプレーしたいという気持ちもありましたし、その場所で優勝を決められて良かったです」

─昨季苦しかったこと、納得できなかったことはありますか?

 「シーズン中はそんなにありませんでしたが、やっぱりポストシーズンはキツかったです。自分が打てない原因は分かっていたのですが、うまく体が言うことを聞いてくれないというか、シーズンとは違った、これまでにない感覚でした。シーズンでは少し形を崩されても、〝ある程度この練習をしていけば元に戻る〟というポイントがあったのですが、ポストシーズンのときはそれをやっても元に戻りませんでした。練習では良い感じでもゲームになると良くならないことが続いていましたね」

─初の日本シリーズでは悔しい結果に終わりました。

 「やはりホームとビジターとの違いをすごく感じました。1点を取るにしてもビジターだと取れない雰囲気になってしまったり、1点を奪うことに難しさを感じました。やはりホームでの声援というのが自分たちにとってすごく大きいものだったんだなと改めて感じることができました。結果的に負けてしまいましたが、正直僕は最後まで負ける気はしていませんでした」

─昨季カープファンの声援についてはどう感じていましたか?

 「シーズン中は正直自分のことで精一杯でしたが、ポストシーズンの頃はすごいなと改めて感じましたね。打席でも力になると感じていました。やはり6月にサヨナラホームランを打ったあたりから、僕に対する声援の大きさが変わったなと実感していました」

─オフに行われた優勝パレードは大いに盛り上がりましたが、いかがでしたか?

 「あれは鳥肌が立ちました。テレビで過去のパレード、他球団のパレードを見てイメージはしていましたが、いざ目の前で迎えるとやっぱりすごかったですね。パレードの後の優勝報告会では日本シリーズ以来、久しぶりに満員のマツダスタジアムを見ることができて、やっぱりいいなと思いました。ジェット風船をグラウンドで初めてやりましたが、僕のやつはあまり飛びませんでしたね(笑)」

◆2013年から2020年に行った鈴木誠也のインタビューは、広島アスリートマガジン2020特別増刊号「鈴木誠也 全インタビュー集」で公開中。