思わず心を奪われる!カープの話題をゆる~くまったりと展開してくれる“オギリマワールド”。関東出身ながら中学生からカープファン。独自のタッチで描かれるイラストを交えたコラムでおなじみのオギリマサホが、広島アスリートマガジンWEBで、新たなカープの魅力を切り取る。今回スポットを当てたのは野球帽の“裏側”。『帽子のつば裏』にまつわるエピソードを、オギリマ視点でゆる~く取り上げる!

◆「選手の帽子のつば裏に油性ペンで書かれている文字」について

 野球の試合中、ふと見えてしまうと、どうにも気になるものがある。それは「選手の帽子のつば裏に油性ペンで書かれている文字」だ。投球動作の一瞬であるとか、帽子を取って汗を拭ったりだとかいった僅かな瞬間に、つば裏にチラリと見える文字。そこにどのような言葉が書かれているのかを即座に判別するのは難しい。あの帽子の裏には、一体何が書かれているのだろうというのが常日頃から気になっており、ついテレビを下から覗いて確認しようとしてしまったりもする。

 今年2月のキャンプ中、カープ公式サイトでは選手たちのグローブに対するこだわりを紹介する「The youの銘」というコーナーが設けられた。そのタイトル通り、多くはグローブに刺繍された座右の銘を紹介するというものであったが、中村祐太だけは、グローブと併せて帽子も紹介していた(※注1)。帽子のつば裏に「“気持ち”」「“感謝”」という言葉が記されているからである。記事によれば、プロに入ってからずっとこの二つの言葉を帽子のつば裏に刻んできたそうで、この言葉に対する中村祐太の強い思い入れがうかがえる。

 このように「帽子のつば裏に書かれる言葉」は、その選手の目標や思いが書かれることが多いようだ。特に高校球児にこの傾向は多く見られ、「笑顔」とか「勝つ」といったようなポジティブな言葉が多く見られる(今年の甲子園出場を決めた岩手・盛岡大付属高の金子京介選手は、帽子のつば裏にファンである「乃木坂46」の齋藤飛鳥の名をデカデカと記していることが報じられていた《※注2》が、これは珍しいケースだろう)。

 プロ野球選手も同様で、たとえば2015年の一岡竜司の帽子のつば裏には「恥をかけっ!!」と大書されており、大胆に攻めた投球をしていこうという心意気を見ることができる。同じ年には九里亜蓮も帽子のつば裏に「Go Hard or Go Home」と書き、「やるしかない」という気概を込めていた。

◆誰かを思いやる気持ち

「帽子のつば裏言葉」の多くは、選手本人が自分で書き込むものだと思われるが、中には他の選手から寄せ書きのように書かれる場合もある。2014年、前田健太の帽子のつば裏には「人生楽笑」と書かれていたが、投手仲間である小野淳平、中田廉、野村祐輔、大瀬良大地の4名に1文字ずつ書いてもらったものだという(※注3)。「帽子のつば裏言葉」は、仲間との絆を示すものでもあるのだ。一方で今年のオールスターゲーム後には、ドラゴンズ帽のつば裏に中日の選手のサインを書いてもらって満面の笑みを見せる栗林良吏の姿を見ることができたが、これは仲間との絆というよりも単なる中日ファンである。

 仲間との絆とは、単にチームメイトに言葉を書き込んでもらうだけではない。仲間への思いをつば裏に書き込む場合もある。2017年、菊池涼介の帽子のつば裏には、闘病中の赤松真人の背番号である「38」が書き込まれていた。戦列を離れている仲間の復帰を願い、「ともに戦っている」という思いを込めているのだろう。

 今年7月6日、マウンドに立つ大瀬良の帽子のつば裏にも、これと同じような数字を見ることができた。「27」。6月中旬に左脚を痛め離脱した會澤翼の背番号である。この真意を問われて「力をもらっている。早く帰ってきてくれることを願っている」(※注4)と語った大瀬良。仲間に対する強い思いが感じられて、われわれファンも胸を打たれた。

「帽子のつば裏言葉」は、つば裏に書かれているという性質上、他人には見せないプライベートな言葉なのかも知れない。しかしその思いをわれわれは知りたく思う。いずれ「帽子のつば裏名言集」が出版されることを、かすかに期待していたい。

※注1:広島東洋カープ公式サイト

https://www.carp.co.jp/camp21/zayuunomei/0222.html

※注2:サンスポ(2021年7月22日)

https://www.sanspo.com/article/20210722-7IMTFGWMPFPA3H3EZEGWMMXHZI/

※注3:日刊スポーツ(2014年7月5日)

https://www.nikkansports.com/baseball/news/p-bb-tp0-20140705-1328870.html

※注4:中国新聞(2021年7月7日)

イラストレーター・オギリマサホが見た、“チームメイトを想いやる大瀬良大地選手”がうかがえたイラスト。

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オギリマサホ
1976年東京都出身。イラストレーターとして雑誌や書籍等の挿絵を手掛けるかたわら、2018年より文春オンライン「文春野球コラム」でカープ担当となり独自の視点のイラストコラムを発表。著書に『斜め下からカープ論』(文春文庫)がある。