2年ぶりに甲子園へと続く戦いが戻ってきたこの夏。多くの球児が口にした「野球を楽しむ」という言葉が2021年を象徴していたように思う。
コロナ禍で高校野球生活の大半を過ごしてきた現3年生。練習時間が制限されたり、多くの対外試合が中止になったりするなど制約があった世代だ。甲子園を目指してプレーできることが何よりの“楽しみ”だったに違いない。
この夏、球児たちへのインタビューを通して、甲子園で春夏連覇を経験されたある名将の言葉を思い出した。
「楽しむとは、本当に苦しい練習、苦しい思いをしてきたからこそ楽しめるものであって、一生懸命取り組んでいなければ楽しむことなんてできない」
選手に話を聞いてみると、やはり同じようなニュアンスの答えが返ってきた。広島大会を制した広島新庄の正捕手、北田大翔選手。兄弟で野球をしており、兄・勇翔さんは2年前の2019年、広島商業の二塁手として夏の甲子園に出場した。その兄から掛けられた言葉が「夏は楽しんで」だったという。大翔選手は振り返る。
「兄も広島商業でキツイ練習をしたと思う。僕も広島新庄の練習で本当にキツイ思いをしてきた。だからこそ最後の夏は楽しめ!と兄も言ったのだと思います」
“楽しむ”の価値観を共有し、弟も夏の甲子園出場を手にした。
“笑顔の祇園北旋風”も野球を楽しむ姿を表現してくれた、今年の広島の夏を象徴する出来事だった。創部39年目にして初めて決勝戦の舞台まで勝ち上がった県立祇園北高校。2回戦でシード校の山陽を延長戦の末に破り、快進撃を続けた選手たちは笑顔が印象的だった。
チャンスでも、ピンチでも、選手たちはみんな笑っていた。キャプテンを務めた臼井友乃祐選手は「全員仲が良いんです」と共にプレーするメンバーとの関係性を明かした上でこんな話もしてくれた。
「仲が良いんですがそれだけではない。お互い注意をしたり指摘をしたりできるのが僕らの良さだと思います」
信頼関係が築けていなければ、心の底から笑顔で試合に臨むことはできなかっただろう。監督や関係者も含めてチームが1つになっていたからこそ、笑顔あふれる大会を送れたのだと思う。
野球を楽しんだ球児たちの夏。楽しんだはずなのに最後は多くの涙がこぼれていた。祇園北の選手たちも決勝戦の後には涙を流していた。
楽しむ野球を勝利で終えられるのは全国でたった1校のみ。はじけた笑顔と流した涙は、次のステップへの糧としてほしい。楽しい未来がきっと待っているはずだから。
文=吉弘 翔(広島ホームテレビアナウンサー)