2016年1月、内川聖一選手(ソフトバンク)と共に汗を流す鈴木誠也選手

鈴木の潜在能力を引き出した“内川流”打撃理論

 話を聞いたからと言って、すぐに全てを実践できるわけではない。とはいえ内川との出会いは、間違いなく鈴木の潜在能力を引き出す一つの要因となっていく。

「個人的に分かりやすかったのが、“昆虫の蝶は4つ羽があって、それぞれ違う動きをして飛んでいる”というお話を聞きました。野球も一緒で、きれいに体を動かしているだけでは打てなくて、『全てが違う動きをして一つの作品になって良い打球が打てる』と教わりました。その動きを意識しながら、どうやれば僕に合う打ち方になるのかということを以前よりも考えるようになりました。もちろん内川さんと同じ打ち方はできないですし、何年も積み重ねてきて内川さんの打撃があると思います。短期間で教わった技術を習得することは無理なので、新しい自分の考えとして持っておこうと思っています」

 コーチの再編も、チーム内に大きな変化をもたらした。前年まで一軍内野守備・走塁コーチを務めていた石井琢朗(現巨人野手総合コーチ)が一軍打撃コーチに配置転換。河田雄祐(現ヤクルト一軍外野守備・走塁コーチ)が、一軍外野守備・走塁コーチとしてカープに復帰した。東出輝裕コーチ、迎祐一郎コーチで形成される球団初の打撃コーチ3人体制と、河田コーチによる守備・走塁の意識の変化が、結果的に鈴木を始めとする選手たちの能力を最大限に引き出した。

 課題を持って春季キャンプに臨むことで、打撃面で意識の変化も見られた。2015年シーズンは『試合で力まないために練習から力むように』していたが、キャンプでは『腕を忘れる』意識を持ってバットを振り込んでいたという。

「自分なりに工夫をした結果、昨季(2015年)はそのような意識で練習をしていました。でも今は、“力を抜いてインパクトだけ”ということが少しずつ理解できています。今は、いかに楽に構えて、いかに自分の腕を忘れるかということを一番意識してスイングをしています。力まないために腕を消すというイメージを持ちながら、構えるときにリラックスするように腕を軽く上下に動かしています。最近その仕草が内川さんに似ているとよく言われることがあります。でも……、決して真似をしている訳ではありません(笑)」