夏の甲子園に出場した広島代表を振り返ると、2000年以降は広陵が8度出場と安定した成績を発揮している。2007年は野村祐輔(カープ)、小林誠司(巨人)のバッテリーを擁して準優勝を果たし、2017年には中村奨成(カープ)が夏の甲子園本塁打記録を樹立する活躍で準優勝を記録している。今回は広陵時代、高校野球ファンに強烈なインパクトを残した中村奨成に、高校時代の思い出を語ってもらった。

今季、プロ初安打・初本塁打を記録。4年目の飛躍が期待される中村奨成選手。

◆忘れられない伝統の練習『45秒』あのダッシュで心身共に鍛えられた

 小、中学校のときから広陵の試合をテレビで見ていて、『強いな』というイメージでした。全国的にも野球名門校ですし、広島県の野球少年なら『広陵』と聞くと憧れを持つ子も多かったと思います。実際そこに入学できて、まして1年生のときから背番号をつけて試合に出させていただくことがすごく不安でしたし、入学当時は自分のことで精一杯でした。

 高校時代の思い出はあり過ぎます(笑)。練習で忘れられないのが広陵伝統の練習である『45秒』です。ホームベースからライトとレフトポール付近にカラーコーンを置いてできる三角形を、三塁側から時計回りにダッシュして45秒での完走を目指すんです。1年生のときに初めて走った際のしんどさは、忘れられません。野球の技術的な練習はもちろんたくさんやりましたけど、精神的に一番鍛えられたのは、あの45秒ですね(苦笑)。

 印象に残る試合も多くあります。周囲の方々からは3年夏の甲子園での本塁打記録をすごいと言われることが多いですが、正直、僕はあまり気にしていない部分があります。ただ、そういう記録をつくった以上、話題に上がることもありますし、覚えていただいていてありがたいことです。

 僕の中では3年夏の広島大会(2017年)で優勝を決めたときが印象深くて、あの時が一番うれしかったです。1年生の頃から試合に出させていただく中で、2年連続で準決勝で悔しい思いをしていました。僕らの代でも準決勝で負けそうでしたが、突破したときはホッとしましたし、決勝で勝てたときは『やっと広島県の頂点に立てた』という思いがありました。なにより、仲間が必死に応援してくれる中で優勝できて、みんなが泣いて喜んでいる姿を見たときに、いろんな思いが込み上げてきて、忘れられない瞬間ですね。

 また高校時代は中井(哲之)先生に大変お世話になりました。当時は怖い先生というイメージでしたが(苦笑)、今では本当の親父みたいな存在です。テレビで見ていた方が目の前にいて、その人と一緒に野球をしていると思うとすごく光栄でしたし、今でも尊敬しています。今もすごく気にかけていただいていて、僕が感じているだけかもしれませんが、中井先生も親父のような感覚で僕に接してくださっていて、本当に感謝しています。

 卒業して数年経ちますが、高校3年間で素敵な仲間に出会うことができて、話を聞いてくれる人はたくさんいます。今もそういう頼れる存在がいるというのは心強いです。高校時代の仲間たちから舞台は違えど活躍している話を聞くと刺激になりますし、僕も負けていられないと思っています。

 そして、広陵での3年間では、野球だけではダメだと気づかせてくれました。それを教えてくれたのが中井先生でした。人間的に僕もまだまだですが、そういった部分を中井先生をはじめ、周囲の仲間たちにも成長させてもらった期間だったと思います。

 今高校野球を頑張っている球児のみなさんは、コロナの影響を受けて本当に辛いと思います。もし僕が当時同じ状況だったら……と想像すると、心が折れそうになると思います。それでも負けずに野球に打ち込むみなさんはすごく強いと思います。高校野球というのは、一生に一度しかない時期です。とにかく悔いを残すことなく野球をやって、甲子園を目指して頑張ってもらいたいです。そしてなにより、その3年間で出会った仲間のみんなを大事にしていってほしいですね。

広島東洋カープ・中村奨成選手