明日、Bリーグがいよいよ開幕する。西地区の注目は、覚悟の大胆補強に成功した広島ドラゴンフライズである。B1得点王のニック・メイヨ、日本代表のキャリアを持つ辻直人、京都ハンナリーズから移籍の司令塔・寺嶋良・・・。
西地区最下位からの逆襲を狙うチームは、地方クラブの苦難の歴史をバネに強くなってきた。このチームのポテンシャルを、広島ドラゴンフライズを創設以来取材してきた『朱に交われば朱くなる 広島ドラゴンフライズ逆境からの軌跡と軌跡』(秀和システム・刊)の著者である坂上俊次氏(中国放送アナウンサー)が綴る。
今回は、補強により様変わりしつつあるチームをまとめることになった新キャプテンに迫っていく。
◆個性派メンバーにチームのイズムを伝える適任者
チーム立ち上げから9年、ヘッドコーチは延べ7人、社長は3人。歴史を刻む中で、選手の顔ぶれも目まぐるしく変わってきた。唯一の生え抜き選手だった田中成也が仙台89ERSへ期限付き移籍、40歳のベテラン朝山正悟はプレー面では健在なものの、昨シーズンの早い段階からキャプテンから退く意思を明言していた。
誰が、個性豊かなチームをまとめるのか。ドラゴンフライズの“イズム”を伝えていくのか。新しくなったチームの中で、フロントは“適任者”を探っていた。
いた。実に、広島ドラゴンフライズらしい選手が、いた。どんな試合展開も諦めない。粘り強いプレーを怠らない。チームのために泥臭く献身できる。
ベネズエラ出身のグレゴリー・エチェニケだ。208センチのビッグマンは、B2リバウンド王のキャリアを持ち、ドラゴンフライズのB1昇格に大きく貢献した。プレーだけではない。その姿勢は、浦伸嘉社長の目にもとまっていた。
「練習にも早く来て、やるべきことことを黙々とやります。ファウルを受けても感情的になるようなこともありません。全力を出し切り諦めない姿勢は、広島らしさを感じさせてくれます」
素直で飾らないエチェニケは、キャプテンに指名された日を素直に振り返る。
「ヘッドコーチとGMに、「練習後に話がある」と言われて、動揺しました。何のことか分からず、自分が何か問題でも起こしたのか?とか思い、練習には全く集中できませんでした(笑)」
ただ、キャプテン指名を受けると、あの動揺は使命感に変わった。
「すごく幸せで光栄に思いました。外国籍選手でキャプテンなんて、そう多くはありません。感謝しているし、チームに貢献したい気持ちでいっぱいです」
言葉の壁は皆無だ。「リバウンド、シュート、スクリーン・・・バスケットの言葉って、ほぼ英語ですから」「英語を話せる選手も多いですから」。さらには「うちのユニフォームにはNOVAのロゴが入っていますし、教室にも通わせてもらっています。言葉の壁はありません」という声もチームメイトから聞かれる。
体を張ってリバウンドを獲得する“ゴール下の力持ち”は、このシーズン、チームを支える“縁の下の力持ち”として、逆襲に燃えるチームを牽引するに違いない。
経営陣は3度の交代、ヘッドコーチは延べ7人目、資金面、戦力編成、試合会場の手配・・・さまざまな課題を乗り越えながら
B1昇格を果たした、広島ドラゴンフライズ。カープ、サンフレッチェとプロスポーツチームが根付く地方都市にあって、「第3のプロスポーツを」と奮闘した男たちの約9年間を追った。ミスターバスケットボール佐古賢一は、何故、広島の地でのリスクある挑戦に挑んだのか。なぜ、日本代表キャリアを持つ、竹内公輔や朝山正悟は、この「いばらの道」に闘志を燃やしたのか。地域、財界、選手、フロント、リーグに至るまで。クラブ立ち上げから取材してきた著者が徹底取材した一冊。
坂上俊次 さかうえしゅんじ(中国放送アナウンサー)
1975年12月21日生、兵庫県出身。1999年に中国放送に入社。
主にテレビ・ラジオでカープ戦の実況中継を担当。Bリーグ、ホッケー、駅伝の中継も担当し、Bリーグ中継では、2019年度、JNN・JRNアノンシスト賞ラジオスポーツ中継部門 優秀賞。2020年度は、ホッケー日本リーグ中継で、JNN・JRNアノンシスト賞テレビスポーツ実況部門 最優秀賞に輝く。
著書に『カープ魂33の人生訓』(サンフィールド・2011年)、『優勝請負人 スポーツアナウンサーが伝えたい9つの覚悟』(本分社・2014年)がある。『優勝請負人』では第5回広島本大賞を受賞。その後、『惚れる力 カープ一筋50年 苑田スカウトの仕事術』(サンフィールド)、『優勝請負人2』(本分社)や『育てて勝つはカープの流儀』(カンゼン)を刊行。「広島アスリートマガジン」ではカープを追う連載を続け、220回を超えた。その他、デイリースポーツ広島版、「コーチングクリニック」などに連載を持つ。中国経済産業局の主導する、ちゅうごく5県プロスポーツネットワークでコーディネーターも委嘱されている。