スピードを活かした個の力で、局面を打開する突破力を持ち合わせたサンフレッチェ広島のFW・サントス。得点能力に優れたストライカーがプロ入りするまでには隠されたストーリーがあった。プロサッカー選手になるまで、サントスがどんな思いでサッカーと向き合ってきたか、その思いを届ける。

2021年にサンフレッチェ広島に加入したサントス選手。

◆23歳でブラジルでプロデビュー。努力が生んだ奇跡の半生

―本誌でサントス選手にインタビューをさせていただくのは初めてなので、まずは、サンフレッチェからオファーがあったときの心境と広島の街の印象を教えてください。

「チームからオファーをいただいたときはすごくうれしかったですし、悩むことなく加入を決断しました。広島の街に関してですが、世界中の学校で、原爆を投下された後に復興を遂げたという広島の歴史を学びます。自分もそのように学校で習いましたので、広島に来ることが決まったときにその歴史を思い出し、改めてインターネットで調べ直しました」

―サントス選手の経歴についてお聞きします。ブラジルでは17歳の頃に一旦サッカーから離れたにも関わらず、23歳でプロ入りされています。

「ブラジル人の男の子はみんな、プロのサッカー選手になることを夢見ています。自分もそこを目指して努力していましたが、17歳のときにもう無理だろうなと諦めてサッカーを辞めました。ずっとサッカーばかりしてきたのでそれ以外のことが何もできず、大工のアシスタントや清掃の仕事など、自分にできそうな仕事なら何でもやりました。食べていくために、本当にいろいろなアルバイトをしましたね。今言っても信じてもらえないかもしれませんが、17歳の頃はすごく痩せていたんです。ですが、大工の仕事でセメントを運んだり力仕事をすることが筋トレになり、徐々に体が大きくなっていきました。そして数年が経って22歳になったとき、やっぱりサッカーをやりたいと思い、草サッカーを始めることにしました。ブラジルでは特定のチームに所属せず、いろいろなチームに呼ばれる〝助っ人〟という存在がいまして、少ない金額ですがバイト代も貰えます。チームに入るという選択肢もあったのですが、助っ人になることを選び、週末ごとに違うチームでサッカーをしていました。そんなある日、セミプロばかりが揃ったようなチームに参加したのですが、プレーを見ていた人からどこに所属しているのかと聞かれました。どこにも所属していないしプロでもないと答えたら、『君なら絶対に成功できるよ』と言われました。自分はプロになれると思っていなかったので最初は戸惑いがありましたが、その人の言葉を信じて挑戦してみようと心に決めました。そしてプロの入団テストを受け、23歳で夢だったプロサッカー選手になることができたんです」

―すごい。映画のようなストーリーです。元々サッカーセンスがあったうえに、大工の仕事で体を鍛えることができたのが功を奏したのかもしれませんね。川辺駿選手のラストゲーム(7月3日鳥栖戦)でのゴールパフォーマンスで背番号8を掲げられたとき、温かい人柄とチームに溶け込んでいる和やかな雰囲気を感じたのですが、それは若い頃に苦労した経験があってのものかもしれないと感じました。

「駿の最後の試合だから、点を取ったら駿に向けたメッセージを出そうと試合前にチームメートみんなで話していました。背番号8を表現しようと思ったんですけど、縦で8をつくるのが難しかったので横向きになってしまいました(笑)」

●プロフィール
ジュニオール サントス
1994年10月11日生 ブラジル出身/FW
得点感覚に優れたストライカー。2017年にブラジルでプロデビューを果たすと、2019年に柏に移籍。2020年シーズン途中に横浜FMに期限付き移籍し、その年22試合の出場でチームトップの13得点を記録した。2021年にサンフレッチェに加入。