2009年10月13日、監督就任

 僕にはひとつの目算があった。「僕は怒られたから成功した」「厳しい練習を耐え抜いたから成功した」「腹が立つことはいっぱいあったけど、そこで踏ん張ってきたから成功した」。これまでのキャリアを通じて、僕なりの成功体験というものが確立されている。

 そんな僕の経験を伝えていけば、今の選手たちはもっと伸びるんじゃないか? カープはもっと強くなるんじゃないか? こんな僕でも成功できたのだから、同じことをやればチーム全体が成功に向けて動き出すんじゃないか? 12年連続でBクラスに沈むこのチームも復活してくれるのではないか……。

 監督をやらせていただきます、という正式な返事をしたのは、発表のほんの4~5日前のことである。自分にやれるのか? 本当にやりたいのか? このチームを、このメンバーで、どういうふうにしていけばいいのか?——心の中で自分に対して何度も何度も問いかけた。実際そういう時間が必要だった。

 本当のことを言えば、結論を出すまでにもっと時間がもらえればありがたかった。ただ、監督という仕事を引き受けることに関しては迷いはなかった。「やりたい」「やってみたい」という気持ちには一点の曇りもなかった。なんとか自分の手で強い時代のカープをもう一度取り戻したい。胸の中にあったのは、ただそれだけだった。

 2009年10月13日、監督就任。僕はそのとき43歳で、メディアは12球団最年少の監督誕生と騒ぎ立てた。そしてここから僕のカープの監督としての5年間が幕を開けることになる。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。