カープの育成過程『守・破・離』がもたらすもの

 スポーツチームを強化するには、選手、指導者、施設(資金)がそろわなければならないと言われている。マネジメントリソースでいえば、『ヒト・モノ・カネ』である。創設当初のカープにはこうした有形力はほとんどなく、メンタル、情報、人脈といった無形力に依存するしかなかった。

 『選手がいなければ、育てればいい』、『金がなければ、後援会をつくればいい』。石本の逆境力が、創設時のカープの支えとなったことは間違いない。

 プロ通算197勝をあげたカープ創設時のエースである長谷川良平も石本監督によって育てられた一人だ。いまも受け継がれるカープの育成システムは職人の徒弟制に似ている。そしてそれは、江戸時代の茶人・川上不白がいう『守破離」を体現しているようにみえる。『守破離』とは、武道の世界で使われる言葉で、「守」は最初のうちは師の教えを守る。「破」は師の教えのみならず、師以外の教えを試す。「離」は師から離れて、自らが学んだ手法を発展させていく、というものだ。

 野球に置き換えて考えると、プロとしての心構えの型を徹底的に『守』らせ、一軍のステージへと『破』らせる。このこだわりの過程が、チームに対する選手のコミットメントを引き出すことにもつながった。

 もちろん、カープ選手もプロである以上、『試合に出たい」、『お金を稼ぎたい」といった功利的コミットメントは強い。しかし、それ以上に、カープに対する愛着心が強いのだ。この情緒的コミットメントがカープの一番の強みといえる。