現役引退表明から約3カ月後、アメリカの自宅でPCを通して届けられたK.ジョンソンの言葉。それは6年間在籍したカープ、そして家族と共に暮らした広島への思いに溢れたものだった。引退の決断した理由、カープでの思い出、石原慶幸・西村公良への思い、そして今のカープへのメッセージ……。1時間を超える独占取材で、最強助っ人左腕が思いの限りを、引退後、初めて告白した。(全5回のうち2回目・取材は11月上旬)

2015年3月28日のヤクルト戦。1安打完封で来日初勝利を飾った。試合後にはバッテリーを組んだ石原慶幸とガッチリ握手。後に最強助っ人左腕と呼ばれるK.ジョンソンの全てのはじまりとなった試合。

◆6年間で印象に残っているのは石原との付き合いが始まった来日初登板

1回目から続く
─カープでの6年間を振り返っていきます。先発投手として、通算128試合に登板していますが、一番印象に残っている試合を教えてください。

「今でもハッキリと覚えているのは来日初登板となった2015年3月28日のヤクルト戦(マツダスタジアム)です」

─9回を1安打・無死球・7奪三振。完封勝利をあげた試合ですね。

「日本でやっていける自信が生まれた試合です。また、石原(慶幸)との付き合いが始まった試合でもあります。試合が始まる前、石原に『お前が出すサインには絶対に首を振らないから』と伝えました。その結果、完封勝利という結果がついてきて、これからの試合も、彼のサインを信じて投げれば、良い結果が生まれるに違いないと感じたのを覚えています。6年間を振り返ると、石原と一緒に素晴らしい成績を残せたと思っています」

─完全試合の可能性もありました。

「相手に打たれた1本は、ライトの(鈴木)誠也の前に無情にも落ちたのですが、捕球できるかどうか判断が難しい打球でした。誠也も安全策を取ったのだと思います。ただ、誠也に会った時は、必ず『あれはお前のせいだ』と言っています(笑)」

─試合後のヒーローインタビューには、本塁打を放った菊池涼介選手と一緒に登場されました。

「キクと一緒に立った最初で最後のお立ち台なのでよく覚えています。実は、このあと、キクと誠也がロッカーにマスクを持ってきてくれたんです。今はマスクは必需品ですが、当時つけることはほとんどありませんでした。『なぜマスクを?』と聞くと、『きっとこれから有名になるから、これをつけて街を歩いたほうがいいよ』と言ってくれました(笑)。あと、当時は髭を生やしていたのですが、試合後に妻に『負けるまでは剃らないからね』と言ったことも覚えています」

─先ほど石原さんの話が出ましたが、6年間で何度も2人で修羅場をくぐってこられました。長年バッテリーを組まれた石原さんはどんな存在でしたか?

「カープに入団した2015年当時、石原は、影でチームを支えているお父さんのような存在でした。そして、捕手としても、私にとっては居なくてはならない存在でした。相手チームの傾向や選手の特徴が全て頭に入っているので、石原の言う通りに投げていれば、自然と結果がついてきました。また、試合中に、打者が対策を変えてきていると感じると、すぐに配球を変えるなど、細かな気づきを感じ取れる素晴らしい捕手でした。石原とは私生活でも家族付き合いがありました。オンもオフも非常に仲良くさせてもらった選手であり、大切な友人です」(続く)

取材協力/J SPORTS

◆Kris Johnson(クリス・ジョンソン)
1984年10月14日生・アメリカ出身。37歳。ウィチタ州大-パイレーツ-ツインズ-広島。2015年シーズンにカープに入団。来日初登板で1安打無死球の準完全試合を達成。以降も先発ローテの柱として登板を重ね、この年14勝。防御率1.85で最優秀防御率のタイトルを獲得した。2年目の2016年は開幕投手を務め、自己最多の15勝。外国人では2人目となる沢村賞を獲得。シーズン後には3年契約を結んだ。2017年は6勝に終わるも、2018年からは2年連続で2桁勝利を記録。2020年は0勝に終わったが、6年間で球団の外国人投手では最多となる通算57勝をあげ、左腕エースとして活躍した。2020年シーズンオフにカープを退団。2021年8月18日に球団を通して現役引退が発表された。