合理性を超える武士道野球2.0

現在、野球界はスポーツ科学の進展に伴い、データによる合理性・効率性が追求されている。こうした野球のもとでは、武士道の概念を持ち出すこと自体、そもそも理屈では理解できない合理性を欠く論理に映るだろう。

しかし、そこにカープ優勝の最後のピースがあったように感じる。合理的でない理屈に支えられた黒田博樹の復帰は、武士道の『忠義』以外のなにものでもない。球団やファンから受けた恩義を生涯忘れず、死ぬことを見つけた、いや最期の生き場所を決断したその姿に、チームメイトは惹かれ、『俺たちも優勝できる』と効力感を高めたのだ。

彼らのスタイルは、決して過度な精神主義や鍛錬主義から根性論へとつながった武士道野球ではない。互いを認め、支え合っていくカープファミリーの絆を深めた武士道野球2.0だった。新井は度々カープを「家族」と表現した。ピンチの炎に立ち向かう兄の『克己』に、弟たちも覇気で応えたのだ。

黒田と新井、彼らはプレーヤーとしてチームに貢献するだけでなく、チームが継承すべき価値あるスタイルを教えてくれた使者のようだった。チーム(組織)を強くするためには、未来を見据えたサムライが必要なのだ。

彼らが去った今、次なる勝利に向けて、レガシーである武士道野球2.0をさらにバージョンアップさせていかなければならない。『礼を尽くし、栄華を捨て、泥まみれにもなる』。B’z が黒田に贈った曲にあるように“RED”に染まった選手の出現に期待したい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

高柿 健(たかがき けん)
広島県出身の高校野球研究者。城西大経営学部准教授(経営学博士)。星槎大教員免許科目「野球」講師。東京大医学部「鉄門」野球部戦略アドバイザー。中小企業診断士、キャリアコンサルタント。広島商高在籍時に甲子園優勝を経験(1988年)、3年時は主将。高校野球の指導者を20年務めた。広島県立総合技術高コーチでセンバツ大会出場(2011年)。三村敏之監督と「コーチ学」について研究した。広島商と広陵の100年にわたるライバル関係を比較論述した黒澤賞論文(日本経営管理協会)で「協会賞」を受賞(2013年)。雑誌「ベースボールクリニック」ベースボールマガジン社で『勝者のインテリジェンス-ジャイアントキリングを可能にする野球の論理学―』を連載中。