スポーツジャーナリストの二宮清純が、ホットなスポーツの話題やプロ野球レジェンドの歴史などを絡め、独特の切り口で今のカープを伝えていく「二宮清純の追球カープ」。広島アスリートマガジンアプリ内にて公開していたコラムをWEBサイト上でも公開スタート!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 ロシアの横暴は目に余る。「ウクライナを非ナチ化する」「弾圧されているロシア系住民を保護する」。手前勝手な理屈をつけて、隣国のウクライナに侵攻したロシア軍は、ならず者の集団である。

 その頭目のウラジーミル・プーチン大統領に至っては「外から邪魔を試みようとする者は誰であれ、歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」と核の使用をちらつかせて、世界を脅している。どちらがナチスか、子供でもわかるだろう。

 国際社会から見放され、孤軍奮闘のウォロディミル・ゼレンスキー大統領はユダヤ系ウクライナ人である。キエフのテレビ塔が砲撃を受けた時には、こんな事実を明らかにした。「ナチスの最大の虐殺の地であるバビ・ヤールの跡地を爆撃し、キエフを攻撃し始めたのは、象徴的なことだ」(ウクライナ当局)。ロシア側に、そうした意図があったとは知らなかった。この一事をもってしても、どちらがナチスかは明白である。

 ところでユダヤ系ウクライナ人と言えば、思い出すのが、1975年と76年の2年間、カープに在籍し、75年の初優勝に貢献したリッチー・シェインブラム(登録名はシェーン)だ。

 もうひとりの外国人ゲイル・ホプキンスほどのパワーはなかったが、勝負強く、ここぞという場面でタイムリーをよく打ってくれた。また選手層の薄かったカープにとってスイッチ・ヒッターの存在は貴重で、監督の古葉竹識は「シェーンには随分、助けられた」と語っていた。

 そう言えば、後に整形外科医となるホプキンスもユダヤ系だったと、古くから彼を知る広島大学のドクターから聞いたことがある。世界的に見てもユダヤ系の医者は多いらしい。

 シェーンは2021年5月、78歳で亡くなった。もし生きていたらロシアに憤怒の感情を抱いていたことだろう。あの温厚なシェーンであっても……。

(広島アスリートアプリにて2022年3月7日掲載)

第1、第3月曜日に広島アスリートアプリにてコラム「追球カープ」を連載中。
※一部有料コンテンツ

▼二宮清純の人気コラム等を多数掲載!ウェブサイト「SPORTS COMMUNICATIONS」はこちら▼

----------------------------------------------------------------------------------

二宮清純(にのみや せいじゅん)
1960年、愛媛県生まれ。明治大学大学院博士前期課程修了。株式会社スポーツコミュニケーションズ代表取締役。広島大学特別招聘教授。ちゅうごく5県プロスポーツネットワーク 統括マネージャー。フリーのスポーツジャーナリストとしてオリンピック・パラリンピック、サッカーW杯、ラグビーW杯、メジャーリーグなど国内外で幅広い取材活動を展開。『広島カープ 最強のベストナイン』(光文社新書)などプロ野球に関する著書多数。ウェブマガジン「SPORTS COMMUNICATIONS」も主宰する。