2018年以来となる一軍マウンドを目指す戸田隆矢(右)

◆歯痒く悔しい経験が野球観を変えてくれた

 順調に歩んでいた戸田隆矢のプロ野球人生が大きく狂ったのは2016年。

 25年ぶりのリーグ優勝を果たすこのシーズン、戸田は6月から先発ローテに定着。7月10日の阪神戦(甲子園)では、140球の熱投でプロ初完投を完封勝利で飾り、自己最多タイの4勝目をあげた。

 しかし7月下旬、思わぬアクシデントで左手を負傷し戦線離脱すると、以降は一軍での登板はなし。2017年は3試合、2018年は7試合。そして2019年は一軍登板なしでシーズンを終えると、2020年7月に左肘手術を決断。育成契約となり、長いリハビリが始まった。

「プロ入り以降、自分の持ち味を出して投げることができた試合は初完封した阪神戦だけだと思っています。と同時に、その直後にケガで離脱してしまったので、あの日の試合を思い出すと歯痒くて情けない気持ちになります」

 しかし、この地獄のような数年間が戸田の野球観を変えた。

「ケガをする前と後では、野球への取り組み方が全然違います。この期間があったからこそ、一層野球に対して真剣に取り組むことができるようになりました。いま振り返ると、良い経験をさせてもらったと受け止めていますし、歯痒い経験を、良い結果につなげていきたいと思っています」

 リハビリ期間中は、トレーナーや球団スタッフなど、数多くの人からサポートを受け、長く苦しい時間を乗り越えた。また、左肘手術を経て復活を果たした高橋昂也からのアドバイスも戸田の不安を和らげた。

「過去の悔しさと未来への不安が何度も頭をよぎり、落ち込むこともありましたが、周囲の応援のおかげで立ち直ることができました。言葉では言い表せないほど、感謝しています」

 約2年ぶりのマウンドとなった昨年8月4日のソフトバンク戦(二軍・由宇)では球速は140キロ台を計測し、順調な回復ぶりをアピールした。

「緊張するかもしれないと思いましたが試合を迎えると〝野球ってこんなに楽しいんだな〟という気持ちで投げることができました」

 オフには大瀬良大地や森下暢仁と自主トレを行うなど、精力的にトレーニングを重ね、春季キャンプに挑んでいる。どん底を経験し、たくましさを増した左腕は、支配下登録の先にある一軍マウンドを目指し、鍛錬を重ねていく。

<プロフィール>
戸田隆矢(とだ・たかや)
■1993年6月10日生(28歳)■181cm/85kg ■左投左打/投手
■兵庫県出身 ■樟南高-広島(2011年ドラフト3位)
左肘手術のリハビリを終え昨年8月に復帰。二軍で6試合に登板し、防御率1.50を記録した。140キロ台のキレのある速球と鋭く変化するチェンジアップが持ち味。プロ11年目を迎える今季、まずは支配下登録が目標となる。