昨日開幕を迎えた2022年プロ野球ペナントレース。4年ぶりのリーグ優勝を目指すカープは、先発の柱として期待される大瀬良大地と森下暢仁に白星がつき、開幕2連勝と好スタートをきった。

 ここでは「カープのエース魂を考える」と題し、2020年にカープOBの大野豊氏に聞いた“理想のエース像”を、前編・中編・後編の3回に分けて再収録する。

 3回目となる今回は、現在のカープのエース・大瀬良大地に焦点を当てる。黒田博樹と前田健太というカープのエースという看板を背負った男たちと共にプレーした経験は、大瀬良にどのような影響を与えているのか? またその2人の存在を踏まえ、大瀬良はどのようなエースに成長することが望まれているのだろうか? 2020年に、大野氏が大瀬良に対して語ったメッセージを届ける。

高みを目指し、年々進化を続ける大瀬良大地

◆大瀬良に求めたい“継続性”

 現在(2020年当時)のカープにおいてエースという存在に最も近いのは、大瀬良大地でしょう。現在の投手陣の顔ぶれを見ても、彼を“エース候補”と呼ぶことについて、異論はありません。もちろん昨季までの大瀬良もエースと呼んでもおかしくはない成績を残していますが、厳しい言い方をすれば“真のエース”と呼ぶにはあともう一歩です。

 大瀬良の投球にケチをつけたいわけではありません。ただ、昨季(2019年)の投球を、15勝を挙げた2018年の投球と比較すると数字にしても、投球の内容についても、若干物足りない部分があります。

 エースには圧倒的な投球が求められます。エースと呼ばれる投手が11勝に留まっていては寂しいですし、何より2018年の成績を2、3年と続けられるようにならなければエースと呼ばれるようにはなりません。

 ただ、大瀬良が並の投手と異なる点は完投に対する高い意識を持っている点です。事実、昨季(2019年)は両リーグトップの6完投をマークしています。昨季(2019年)のカープは大瀬良の完投に助けられた部分も少なからずあっただけに、チームへの高い貢献というエースの必須条件は満たしていると見ることもできます。

  自分が受賞した賞のことを言うのは気恥ずかしいですが、沢村賞の歴代受賞者はエースと呼ばれた投手たちが数多くいます。数々の厳しい基準をクリアした高いレベルの成績を残した投手に与える賞ですが、近年特に難しいのが完投の項目です。

 登板数(25試合)、勝利数(15勝以上)、勝率(6割以上)、投球回数(200イニング)奪三振(150個以上)、防御率(2.50以下)という数字については現代の野球でも達成できなくはない数字ですが、完投数(10試合以上)だけは、非常にシビアな数字だと言わざるを得ません。

 私が沢村賞を受賞した時も、完全に基準を上回ったわけではないので偉そうなことは言えませんが、やはりエースと呼ばれる存在にはそれだけの完投数を求めたいです。そういう意味でも大瀬良が近年意識して完投数を増やしているという点は素直に好感が持てますし、ぜひその道を突き進んでいってほしいと思います。

 私も現代野球におけるストッパー、セットアッパーの重要性は理解しています。むしろ現代野球において、2番手以降に投げる投手たちへの負担は年々増していっているように思います。事実カープも3連覇中にフル回転した投手たちは昨季軒並み成績を落としていました。先発陣が苦しい時はリリーフが助けてくれますが、やはりリリーフ陣が苦しい時に一人で投げ切ることでチームを助けるのがエースです。大瀬良自身リリーフの経験もあるだけに、そういう思いを抱いているのかもしれません。

 エースと呼ばれる存在は12球団あって、10人名前が挙がるかどうかという割合で、選ばれた投手しかそう呼ばれません。大瀬良はそこに挑戦できるだけの十分な資質を持っていますし、これからもぜひ結果にこだわった圧倒的な投球を展開してほしいですね。

 またエースは周囲への影響力があってこそです。大瀬良も年齢的には中堅になってきましたし、これからは若手投手に直接的な言葉や、マウンド上での姿勢を通して、カープ投手陣に受け継がれる伝統をぜひ伝えていってほしいですね。

 またエースと呼ばれるからには投手陣だけではなく、野手陣からも信頼されるような言動、行動が求められてくるでしょう。これは一般社会でも同じことが言えるかもしれませんが、結果だけ残しているようでは周囲の人間から信頼を得ることはできません。社会人としてしっかりとした行動を取ることで、周りの人からも認められてくるものなのです。