類まれな記録を残してきたカープ選手を取り上げる『カープ歴代記録列伝』。ここでは、カープに息づく、記録にも記憶にも残る歴代記録を紹介していく。

2022年3月21日に開催された「Carp Legend Game」で元気な姿を見せる外木場義郎氏。

◆完全試合を達成した試合でリーグ最多の16奪三振

 カープ女子をはじめとする若い世代の広島ファンにとって外木場義郎は「銀行員風の真面目そうなおじいちゃん解説者」かも知れないが、オールドファンにとってこの人はまさにレジェンドだ。

 そのレジェンドの名を、広島の地以外で久しぶりに目にしたのが今年4月10日。千葉ロッテの佐々木朗希がオリックスを相手に「史上最年少」「13者連続奪三振」「1試合19奪三振(タイ記録)」などまさに記録ずくめの歴史的快投でプロ野球史上16人目の完全試合を達成した日のことだ。
 
 佐々木の偉業により、80年を超えるプロ野球の歴史のなかでわずかに16人しかいない「完全試合」達成者の名前がメディアに取り上げられたのだが、その中に広島から唯一、名を刻んでいたのが「外木場義郎」であり、それまで「完全試合最多の奪三振記録(16)」を保持していた投手こそ「外木場義郎」なのである。

 前述の通り「完全試合における最多奪三振」は佐々木にサクッと抜き去られてしまったが、セ・リーグで「一試合16奪三振」は最多記録のまま(達成者はほかに金田正一、江夏豊、桑田真澄、野口茂紀ら8人)。くわえて、外木場は完全試合のみならず、なんと2度のノーヒットノーランを記録。合計「3度のノーヒットノーラン」は外木場のほかに、あの沢村栄治が達成しているが、「2リーグ制以降で3度のノーヒットノーラン」、さらには「一度の完全試合を含む」という“但し書き”がつくと、長い歴史を誇るプロ野球史上でも外木場義郎ただ一人なのである。

◆「なんならもう一回やりましょうか?」

 外木場がまず最初にノーヒットノーランを達成したのは、新人年の1965(昭和40)年10月2日、甲子園での阪神戦のこと。「新人年」というだけでも特筆モノだが、実はこの日の登板は代役先発だったという。当初の先発予定は大羽進。ところが大羽の体調が思わしくなく「お鉢が回ってきた」(外木場)のである。一方阪神の先発は、当時すでにレジェンドとなっていた村山実。

 「村山さんは全身を使って投げ、グイグイ力で推すタイプ。“あんな投手になりたい”と、ずっと憧れていたんです」という外木場は、球はめっぽう速かった(※当時の球種は「スピードガンがあれば150キロは優に超えていた」といわれる剛球と大きく曲がるカーブのみ)ものの、制球難もあってこの試合まで10試合に登板もプロ未勝利の“ひよっこ”だ。阪神ファンからすれば、“戦う前から勝ちやんか!”ゲームである。

 ところが、この日の外木場は制球が安定、大きなカーブはコースに決まり、自慢の速球もビッシビシ。終わってみれば3回に1四球を与えたのみの「準完全試合」を達成してしまったのだ。しかもこれが「プロ初完投、初完封、初勝利」のオマケ付きで、世間に与えた衝撃は今回の佐々木朗希に負けず劣らず…といいたいところだが「当時は今みたいにマスコミが騒ぐわけでもなく、試合中に意識することも全然ない。記録にもあんまり感動はなかった」(外木場)とそっけない。

 ただし、試合後に記者からかけられた次のひと言は外木場の心に火を点けた。

  “外木場くん、こういう記録を達成した人は意外と短命だからねぇ”

 この時、外木場が返す刀で切り返したのが、今でも語り草となっているあの言葉だ。

 「なんならもう一回やりましょうか?」