プロ11年目のシーズンは、開幕から二軍での調整が続いている。先発投手の日本記録を持つ野村祐輔にとって試練の時期なのは間違いない。かつてはエースと呼ばれた時期もあるなど、実績と経験はチーム随一。栄光を知る男の復活が、チームに必要なときは必ず来るはずだ。幾度も壁を乗り越えてきた男は、胸の内で静かな闘志を燃やしている。(全2回のうち1回目・取材は2022年5月上旬)
◆自分は何をするべきか。昨季の結果が教えてくれた
プロ入り以降、先発として積み重ねてきた勝利は77勝。1年目から卓越した投球術を武器に、白星を積み重ね、昨季はプロ初登板から188試合連続先発登板の日本新記録も樹立した(現在は193試合まで記録更新)。しかしプロ10年目の節目のシーズンとなった昨季、野村祐輔はプロで初めて未勝利に終わった。勝ち運から見放された試合もあったが、直球と変化球を両サイドに巧みに操り、緩急を使った投球の組み立てで勝負する野村の持ち味が影を潜めていた。
一昨年のシーズン途中に受けた右鎖骨下静脈血栓症除去の手術が影響していたことは容易に想像がつく。野村は「初めてケガをした箇所だったので影響については分かりません」と話したが、このケガは完治まで約1年間近く要するという話も聞いたことがあるからだ。
しかし、野村は、手術から約5カ月後には一軍の先発マウンドに立っていた。カープ先発陣では最年長の責任感が、復帰を急がせたのかもしれない。ただ、求められる結果を残すことはできなかった。わずか8試合の登板で4敗。防御率は6点台。若い投手が一軍の試合で躍動するなか、悔しさを抱え二軍でシーズンを終えた。
迎えた今シーズン、復活に向けて、野村は自主トレから精力的に取り組んだ。
「走るトレーニングも大事ですけど、まずは投げること。投げて体をつくることを意識して自主トレから取り組んできました。また、腕の振りをもっと早くしたいという思いがあったので、重い球を投げてみたりなど、新しいメニューも取り入れました。体の状態は昨年に比べたらはるかに良いです」
春季キャンプで足を痛めた影響で、別メニュー調整を余儀なくされたが、体の状態の良さは徐々に結果として表れていく。今季の実戦初登板となった3月22日のソフトバンク戦(二軍)、9回のマウンドに上がると1回を無失点。3月29日の中日戦(二軍)では3回を無失点。調整遅れを考慮され、試合を重ねるごとにイニングを伸ばしていく起用となるなか、結果を残し続けた。そして迎えた4月8日。マツダスタジアムで行われた阪神戦(二軍戦)で先発マウンドに上がると、5回を1失点(自責点は0)に抑える、野村らしいテンポの良い投球をみせ、復調をアピールした。
「下半身からの連動でうまく投げることができています。まだまだですが、少しずつ球速も戻りつつあります。あとは再現性をもっと高めていきたいですね」
5月中旬時点で、野村の二軍での成績は5試合に登板し、防御率は0.90。20回を投げて自責点は2と抜群の安定感を誇っている。
「考えているのは常に結果を残すこと。一軍を考えると、それは大前提。その上で、内容も求めていきたいと思っています。今は1日も早く一軍に上がるために二軍の試合に臨んでいます。早く昇格できるようにやっていくだけです」(続く)
◆野村祐輔(のむら ゆうすけ)
1989年6月24日(32歳)/岡山県出身/177cm・86kg
右投右打/投手/広陵高-明治大-広島(2011年ドラフト1位)