◆チームに力がないわけではない

 ピッチャーに対しては、ずっと言い続けている四球を減らすこと。あとはスライドステップ(クイックモーション)。たとえば当時、ある球団ではピッチャーの足が動き始めてから球がキャッチャーのミットに収まるまで1.20秒以内を目指していたが、うちは1.30秒以内ということで練習した。これは速さを気にしすぎて、投球が小さくならないよう配慮してのことである。

 それ以外にもバント練習やバスター練習も丁寧にやってもらうよう要求した。つまり方向性としては2011年と大差はないかもしれないが、精度を上げていくことを目指したのである。走塁の練習ひとつにしても、やり方を変えてみたり作戦面に変化をつけたり、選手が新鮮な気持ちで取り組めるよう知恵を絞って考えた。

 シーズン前にメディアに向かって「改めて優勝することしか考えていない」と発言したことは憶えている。それはそのままの気持ちである。前年、交流戦10連敗から持ち直したことなどを見ても、チームに力がないわけではないのだ。

 もちろん5位という成績が示すように力がないからその位置にいるのだが、しかし上位とまったく戦えないほど力が劣っているわけではない。大型連敗から少しでも早く抜け出したり、競った試合をひとつでも多く取れるようになれば結果は大きく変わってくるはずだという確信が僕の中に存在していた。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。