◆堂林の持つ“未知数の勝負強さ”

 だが、それでも打撃の調子は上向かなかった。とにかく良いときと悪いときの波が激しい。だから「今日こそは二軍に落とそう」と思うのだが、そんなときに限ってものすごい当たりを飛ばす。それで「もうちょっと置いておこう」となる。ギリギリのところに追い詰められたら快打、再び沈黙してまた追い詰められると快打……その繰り返し。

 そういうことが続くので、コーチと話していても「あいつは何か持ってる」という話になる。これは余談になるが、彼はこの年の4月24日、阪神戦で打ったプロ初ホームランがバックスクリーン右への決勝打という大仕事をやってのけるが、そのときの手帳にも僕は「甲子園でこいつ持ってんのかな」「普通こういうところで打てないよな」とあっけにとられた様子で書いている。彼の持つ“未知数の勝負強さ”が次第に魅力的なものとして僕の目に映るようになってきたのだ。

 と、同時にこのシーズンはチーム事情として“サードを守れる長距離砲”をつくることが至上命題だった。前年はトレーシーという外国人選手を獲得したがケガのためすぐに帰国してしまった。それ以降、なかなか良い外国人野手が見つからない。

 (栗原)健太はどうかという話になるのだが、健太もヒジが悪いのでサードを守ることは考えにくい。そんな状況だったので堂林をサードで鍛えていくという考えは頭の隅にはずっとあった。最終的に僕の背中を押してくれたのは、王(貞治)さんだった。オープン戦のときにヤフードーム(現ヤフオクドーム)でお話させていただく機会があり、そのとき僕は相談を持ちかけた。

「今、実績ゼロの高卒3年目の選手を使ってみようと思ってるんです。王さんにはそういう経験がおありですか?」と聞いてみると、王さんが「あるよ。もし何か感じるものがあるのだったら使わなきゃダメだよ。責任をとるのは君なんだから」とおっしゃったのだ。

 それを聞いた瞬間、僕の中で「よし、堂林を使おう!」という決心が固まった。そして2012年シーズン開幕戦、堂林を“七番・サード”で先発出場させた。