◆キクの肩の強さには本当に助けられた

 この年のオーダーは、新加入した(フレッド・)ルイスに1番を打たせ、“キクマル”を二、三番に固定というところに落ち着いた。キクは打率.247でそれほど良いとは言えないが、この年彼は補殺数の日本記録(528補殺)をつくるなど、とにかく守備で貢献してくれた。だから、「打てなくても気にするな」と伝えていた。

 たとえば彼はツーアウト二、三塁でセンター前に抜けそうな当たりをファインプレーでアウトにしてくれたりする。そういうときは守りで2点防いでいるわけで、「打っての2点も守っての2点も同じ2点、おまえは今日は2打点みたいなものだ」と持ち上げたりした。

 そういう部分はこの年の特徴かもしれない。選手を表立って褒めることは少ないが、良いと思ったことはちゃんと伝える。誰もが認めるヒーロー的プレーはメディアが取り上げてくれるので、僕は誰も気づいていないような隠れた名プレーを積極的に拾い上げるようにした。

「あそこにカバーリングに行ったということは試合に集中してたな」とか、「目立たないプレーだけど、あれは好きだな」とか、そういうことをすれ違いざまに伝えると、選手は、「見ててくれたんだ」と思って継続してやってくれるようになる。

 特に僕はカバーリングやフォーメーションには自信を持っているので、それができた選手は徹底的に褒めた。キクに関しても、ベンチでよく彼の横に座って「今のプレーは良かった」「今のは無理しちゃいけない」と地道に伝えてきた。彼には少しずつ野球の奥深さを学んでもらいたいと思っていた。

 それにしてもキクがセカンドに定着したことで、ダブルプレーの数は格段に増えた。チームが強いときはダブルプレーも多い。ダブルプレーをとるために必要なのはセカンドの肩の強さ。5–4–3、6–4–3、または1–4–3……そういう部分ではキクの肩の強さには本当に助けられたと思っている。

●野村謙二郎 のむらけんじろう
1966年9月19日生、大分県出身。88年ドラフト1位でカープに入団。プロ2年目にショートの定位置を奪い盗塁王を獲得。翌91年は初の3割をマークし、2年連続盗塁王に輝くなどリーグ優勝に大きく貢献した。95年には打率.315、32本塁打、30盗塁でトリプルスリーを達成。2000安打を達成した05年限りで引退。10年にカープの一軍監督に就任し、積極的に若手を起用13年にはチームを初のクライマックス・シリーズに導いた。14年限りで監督を退任。現在はプロ野球解説者として活躍中。