2016年〜2018年、カープがリーグ3連覇を果たした当時、不動の「1番・ショート」としてチームを牽引した田中広輔。2019年以降は故障もあり、苦しいシーズンが続いている。

 今季は、ここぞの場面で印象的な一打を放つなど、その存在感を見せつけている。チームの布陣が変わりゆく中で、背番号2の経験は不可欠だ。ここでは、節目のプロ10年目を迎えたベテランの思いに迫る。(全3回・3回目)

今シーズン、復活を期する田中広輔選手

◆もっと他の選手のプレーに興味を持ってほしい

─3連覇以降、若手選手が増える中で、長年チームを見てきた田中選手だからこそ感じるチームの変化を教えてください。

「僕は選手なのであまり大きなことは言えないですけど、タイミングの問題もあると思います。3連覇の頃は1人ひとりが自分の役割を理解してチーム全員が勝つために何ができるかをブレずに1年間戦うことができていたのではないかと思います。やはり長いシーズンをプレーしていると、良いことよりも悪いことが多いですし、打てないことの方が多いわけですから。そう考えると、打てないときの入り方も大事になってきますし、チームが勝つために1打席捨てなければならない場面もあります。あの頃はそういった意識をチーム全員が持っていたと思います。そういう意識がなくなったわけではないと思いますが、経験の浅い選手が増えるなかで、もちろん若手は自分の結果を出すことで必死になります。ですが、ここは一軍です。チームが勝つために自分を殺せる選手が数多くいないといけませんし、その積み重ねですからね」

─田中選手は2019年から昨年までの4年間、故障も含めて苦しい時期もあったと思います。改めてプロ10年目を迎えた田中選手にとって、3連覇以降のこの期間はどのような意味を持つ時間となっていますか?

「僕は幸い、プロ入りしてからずっと試合に出ることができていましたし、ここ4年間のような経験があまりありませんでした。本当はそういう経験はしたくないなと、どの選手も思うところだと思います。試合に出るための準備をしてきた自負はありましたし、その中でケガにも勝てなかったし、そこから何とか巻き返したいという気持ちの焦りもあったし、監督も変わってチームの雰囲気も変わり……その中でうまく対応できなかったなと。その当時を思えば、僕もまだまだ若かったなと思う部分もありますし、全てを引っくるめて、良い経験だったと思います」

─数々の経験を持つ田中選手ですが、現時点でご自身がチームに伝えていきたいことは何でしょうか?

「プロ野球は、チームが負けていたとしても自分の成績が良ければ、年棒が上がるという部分もあって少し歪な世界です。その中でカープは、他の選手が良いプレーをすれば1人ひとりが喜んでくれるし、ダメなプレーをすれば叱ってくれます。新井監督も言っているように、家族みたいなチームです。僕としてはもっともっと他の選手のプレーに興味を持ってほしいですね。打てなかったりミスをしたときにベンチの後ろのほうで、落ち込んでいる選手もいます。そういうときこそ、次の選手に『頼んだ! なんとかしてくれ!』と真っ先に前に出てきて応援する……そういう姿というのは、すごく大事だと思っていますね。僕は絶対にそういう姿を見せないし、表情に出さないという教えを守ってきているつもりです。もちろん僕だって打てなかったり、エラーをしたりしたら……人間ですので、結構キテますけどね(苦笑)。でも、そういう姿勢を伝えていきたいです」

─今季から鳴り物応援が復活しました。開幕後、田中選手の登場時は特に大きな声援でしたね。

「地元開幕戦(4月4日・阪神戦)に、代打で出たときの歓声の大きさは本当に嬉しかったです。僕自身も一番大きな声援なのかなと感じていました。やはり歓声をいただくと気持ちがグッと上がりますし、後押しになります。時にはプレッシャーになることもありますが、それがプロ野球ですからね。やっと戻ってきたな、という感覚ですね

 ─最後に今季の個人的な目標と意気込みを聞かせてください。

「まずはしっかり、もう一度自分の立場、居場所をしっかりと結果で示すこと。それが一番だと思っています。ベテランになってくると結果ではない部分もあると思いますが、それは当たり前のことであって、やはり結果の世界ですので、勝てなかったらどんどん若い選手を試したいと思う世界ですから。そこを跳ね返すくらいの結果を出したいです」